MySQLとMariaDBの基本
MySQLとMariaDBの基本的な内容と特徴について簡単に説明いたします。
MySQLとは?
MySQLは、世界で最も広く利用されているオープンソースのリレーショナルデータベース管理システム(RDBMS)の一つです。特に、Webアプリケーションとの親和性が高く、LAMP(Linux, Apache, MySQL, PHP/Python/Perl)環境のデータベースとして知られています。
MySQLの特徴
- 高い信頼性と安定性:1995年のリリース以来、多くの企業や開発者に支持されており、安定した運用が可能です。
- スケーラビリティが高い:小規模なアプリケーションから、大規模なエンタープライズシステムまで幅広く対応できます。
- 豊富なツールとサポート:MySQL Workbenchなどの管理ツールが充実しており、商用サポートも提供されています。
- クラウド環境との親和性:AWS(Amazon RDS for MySQL)、Google Cloud SQL、Microsoft Azure Database for MySQLなど、主要なクラウドサービスで利用できます。
MySQLは2008年にSun Microsystemsに買収され、さらに2010年にOracleがSun Microsystemsを買収したことで、現在はOracleが開発と管理を行っています。このOracleの買収が、後述するMariaDBの誕生につながりました。
MariaDBとは?
MariaDBは、MySQLのオリジナル開発者であるMichael "Monty" Widenius氏が2010年に立ち上げたオープンソースのデータベース管理システムです。MySQLと高い互換性を維持しつつ、ライセンスの制限をなくし、より柔軟な運用を可能にすることを目的としています。
MariaDBの特徴
- 完全なオープンソース:MySQLがOracleの管理下にあるのに対し、MariaDBはGPLライセンスのもとで完全なオープンソースとして提供されています。
- パフォーマンスの向上:並列処理の最適化や、新しいストレージエンジンの導入によって、特定のクエリの実行速度が向上しています。
- より多くのストレージエンジン:MySQLよりも多くのストレージエンジン(Aria、TokuDB、MyRocks など)をサポートしており、用途に応じた最適化が可能です。
- コミュニティ主導の開発:開発の意思決定がOracleではなく、オープンソースコミュニティによって行われています。
MariaDBは現在、多くのLinuxディストリビューション(Debian、Ubuntu、CentOS など)でMySQLのデフォルト代替として採用されるほど、広く普及しています。
両者の関係性と歴史
MySQLとMariaDBは、基本的に同じコードベースから派生しているため、多くの点で共通しています。しかし、OracleのMySQL買収後、以下のような背景からMariaDBが誕生し、両者は異なる進化を遂げることになりました。
主な経緯
- OracleによるMySQLの買収(2010年)
- OracleがSun Microsystemsを買収し、MySQLの管理を引き継ぐ。
- オープンソースコミュニティ内では、OracleがMySQLの開発を制限するのではないかという懸念が生まれる。
- MariaDBの誕生(2010年)
- MySQLの創設者が、MySQLと互換性のあるオープンなデータベースとしてMariaDBをフォーク(派生)する。
- MariaDBは、MySQL 5.5をベースに開発が進められ、以後、独自の機能を追加しながら発展。
- 両者の違いが拡大(2015年以降)
- MySQLはOracleの管理下で独自の新機能(MySQL 8.0 以降のJSON機能やCTEなど)を追加。
- MariaDBは、独自のバージョン管理を採用し、よりオープンな開発体制を維持。
このように、MySQLとMariaDBは同じルーツを持ちながらも、それぞれ異なる方向性で発展を遂げています。
MySQLとMariaDBの主要な違い
ライセンスの違い(Oracle vs オープンソース)
MySQLは現在、Oracleが管理するデータベースであり、エンタープライズ向けの商用ライセンス(MySQL Enterprise Edition)も提供されています。一方、MariaDBはGPL(GNU General Public License)のもとで完全なオープンソースとして提供されており、誰でも自由に利用・改変が可能です。
ライセンスの比較
項目 | MySQL | MariaDB |
---|---|---|
開発元 | Oracle | MariaDB財団 & コミュニティ |
ライセンス | GPL(一部商用機能あり) | 完全GPL |
商用サポート | Oracleによる提供(有料) | MariaDB社による提供(有料) |
MySQLの商用版には、追加のセキュリティ機能や監査ツールが含まれていますが、MariaDBは完全にオープンソースのままであり、制限なく利用できます。
パフォーマンスの違い(速度と最適化)
MariaDBは、MySQLと比較してパフォーマンスの最適化が施されており、高速なデータ処理が可能です。
パフォーマンス向上のポイント
- マルチスレッド処理の最適化
- MariaDBは、並列クエリ処理をより効率的に行えるよう最適化されており、大規模システムでのスループットが向上。
- ストレージエンジンの追加
- MariaDBは、多くのストレージエンジン(Aria、TokuDB、MyRocksなど)をサポートし、特定のワークロードに応じた最適化が可能。
- MySQLはInnoDBが主要なストレージエンジンとして使われるが、選択肢はMariaDBより少ない。
- クエリキャッシュの最適化
- MariaDBはMySQLに比べてクエリキャッシュの処理効率が向上しており、大量のクエリを処理する際に有利。
これらの最適化により、MariaDBはMySQLよりも高いパフォーマンスを発揮するケースが多く、大規模データ処理に適しています。
互換性の違い(SQL構文とストレージエンジン)
MySQLとMariaDBはもともと同じコードベースから派生しているため、基本的なSQL構文は互換性があります。しかし、時間の経過とともに両者は独自の機能を追加し、完全な互換性が保たれなくなってきています。
SQL構文の違い
MySQL 8.0では、新しいSQL機能が追加されており、MariaDBと互換性のないものもあります。
MySQL 8.0の主な新機能
- 共通テーブル式(CTE: Common Table Expressions)
WITH
句を使用した一時的なテーブルを定義可能。- MariaDB 10.2以降も部分的に対応しているが、動作の違いがある。
- ウィンドウ関数
ROW_NUMBER()
、RANK()
などの分析関数をサポート。- MariaDB 10.2で同様の機能が実装されているが、一部の構文に違いがある。
- JSON機能の強化
- MySQL 8.0ではJSONデータ型を活用した関数 (
JSON_TABLE
など) が追加。 - MariaDBにもJSON関連機能はあるが、MySQLと完全には互換性がない。
- MySQL 8.0ではJSONデータ型を活用した関数 (
このように、MySQL 8.0の新機能を活用しているシステムでは、そのままMariaDBへ移行するとエラーが発生する可能性があります。
ストレージエンジンの違い
ストレージエンジンとは、データの保存方法を決定するコンポーネントです。MySQLとMariaDBではサポートするストレージエンジンの種類に違いがあります。
ストレージエンジン | MySQL | MariaDB | 特徴 |
---|---|---|---|
InnoDB | ○ | ○ | トランザクション対応のデフォルトエンジン |
MyISAM | ○ | ○ | 読み込みが速いがトランザクション非対応 |
Aria | × | ○ | MyISAMの改良版、クラッシュ耐性あり |
TokuDB | × | ○ | 圧縮率が高く、大規模データ向け |
MyRocks | × | ○ | Facebook開発の高速ストレージエンジン |
Spider | × | ○ | 分散データベース用エンジン |
MariaDBは多くの追加ストレージエンジンをサポートしており、特定の用途に応じた最適化が可能です。特に、大量のデータを効率よく扱いたい場合には、TokuDBやMyRocksの利用が検討されます。
一方、MySQLはInnoDBを中心に開発が進められており、エンタープライズ用途ではInnoDBを最適化することで十分なパフォーマンスを発揮します。
開発コミュニティとサポートの違い
MySQLの開発体制
MySQLはOracleによって管理されており、新しいバージョンの開発はOracleの戦略に沿って行われます。公式のドキュメントやアップデートの情報はOracleが提供し、有償のエンタープライズサポートが用意されています。
Oracleの管理下にあるため、企業ユーザーにとっては安定したロードマップが提供されるメリットがありますが、一方で開発の透明性に懸念を持つ声もあります。
MariaDBの開発体制
MariaDBはオープンソースコミュニティ主導で開発が進められており、MariaDB Foundationが中心となっています。全てのソースコードや開発計画は公開されており、透明性の高い開発体制が特徴です。
また、多くのLinuxディストリビューション(Debian、Ubuntu、Red Hat など)では、デフォルトのデータベースとしてMariaDBが採用されており、オープンソース環境ではMariaDBがより優勢となっています。
セキュリティ面での違い
データベースのセキュリティは、システムの信頼性に直結する重要な要素です。MySQLとMariaDBでは、セキュリティパッチの提供方法や暗号化のサポートに違いがあります。
MySQLのセキュリティ特徴
- Oracleがセキュリティパッチを管理し、定期的にアップデートを提供。
- デフォルトの暗号化機能が充実(MySQL Enterprise Editionのみ)。
- データマスキング機能(商用版のみ)。
MariaDBのセキュリティ特徴
- オープンソースとして開発されており、コミュニティによる監査が行われる。
- デフォルトで一部のセキュリティ機能が強化(プラグインなしでの暗号化対応)。
- 商用版でなくてもセキュリティ機能を利用可能。
商用環境で、Oracleの公式サポートを受けながら運用する場合はMySQLが適しています。一方で、完全なオープンソースのままでセキュリティを確保したい場合はMariaDBが有利です。
プラグインやエクステンションの違い
MySQLとMariaDBでは、拡張機能(プラグイン)の管理方法が異なります。
MySQLのプラグイン管理
- プラグインの導入は制限されており、Oracleが管理する公式プラグインを使用。
- 商用版のエンタープライズ機能(データマスキング、監査ログなど)は、ライセンス購入が必要。
MariaDBのプラグイン管理
- より自由なプラグインの開発・利用が可能。
- 商用版に依存しないオープンなプラグインが豊富(例えば、ProxySQL など)。
オープンソースの環境では、MariaDBのほうが柔軟なカスタマイズが可能になります。
バージョン管理とリリースの違い
MySQLとMariaDBは、それぞれ独自のバージョン管理方式を採用しています。
MySQLのバージョン管理
- MySQL 5.7 → MySQL 8.0 と進化(6.0, 7.0は飛ばされた)。
- Oracleの管理下で一貫性のあるリリースが行われる。
- 長期サポート(LTS)バージョンの提供あり。
MariaDBのバージョン管理
- MySQL 5.5をベースに独自のバージョン(10.0, 10.1, 10.2 ...)を採用。
- MySQL 8.0とは異なる進化を遂げており、新機能の実装順序も異なる。
- 定期的なアップデートが提供されるが、LTSの概念がやや曖昧。
このため、MySQL 8.0以降の新機能を活用するシステムでは、そのままMariaDBに移行すると互換性の問題が発生する可能性があります。
MySQLとMariaDBのメリット・デメリット
MySQLとMariaDBにはそれぞれ強みと弱みがあり、用途に応じた選択が求められます。以下に、両者のメリットとデメリットを整理します。
MySQLのメリット
- エンタープライズ向けの安定性
- Oracleが開発を管理しており、大規模な商用環境での安定した運用が期待できます。
- 企業向けの有償サポートが充実しているため、重要なビジネスシステムにも適用可能です。
- クラウド環境との親和性
- AWS(Amazon RDS for MySQL)、Google Cloud SQL、Microsoft Azure Database for MySQL など、主要なクラウドサービスで広くサポートされています。
- 新しいSQL機能の提供
- MySQL 8.0以降では、JSON関連の関数や共通テーブル式(CTE)など、最新のSQL機能が積極的に追加されています。
MySQLのデメリット
- 商用機能の制限
- 高度なセキュリティ機能(データマスキング、監査ログなど)は商用版でのみ利用可能であり、無償版では一部機能が制限されています。
- 開発の透明性が低い
- Oracleの管理下にあるため、将来の開発方針が完全には公開されておらず、一部の変更が突然行われる可能性があります。
- ストレージエンジンの選択肢が少ない
- MySQLの主要なストレージエンジンはInnoDBですが、MariaDBのように多様なエンジンが用意されているわけではありません。
MariaDBのメリット
- 完全なオープンソース
- 企業の方針に左右されず、自由に利用・カスタマイズが可能です。
- 商用機能も無償で利用できるため、追加のライセンスコストがかかりません。
- パフォーマンスの最適化
- MariaDBはマルチスレッド処理が最適化されており、特定のワークロードではMySQLよりも高速に動作します。
- クエリキャッシュの処理効率が高く、読み取り性能が向上しています。
- 多様なストレージエンジンのサポート
- MyRocks(Facebook開発)、TokuDB(高圧縮データ向け)など、特定の用途に特化したストレージエンジンを利用可能。
- 開発の透明性が高い
- MariaDB Foundationが主導し、開発計画が公開されているため、将来的なロードマップが明確。
MariaDBのデメリット
- MySQL 8.0の新機能が使えない
- 特に、JSON関連の高度な機能やウィンドウ関数の一部がMySQL 8.0と異なるため、新機能を活用したシステムでは移行時に注意が必要です。
- クラウド環境のサポートが限定的
- AWSやGoogle CloudではMariaDBがサポートされていますが、一部のクラウドプロバイダではMySQLのほうがサポートが手厚い場合があります。
- バージョン管理が独自路線
- MariaDBは独自のバージョン管理を採用しており、MySQLの最新バージョンとの直接的な比較が難しい。
MySQLとMariaDBの選び方
小規模から中規模のプロジェクトに最適なのは?
MariaDBが適しているケース
- コストを抑えたい → MariaDBは完全なオープンソースであり、商用ライセンス不要。
- オープンソース環境で運用したい → Linux環境ではMariaDBがデフォルト採用されていることが多い。
- パフォーマンスを重視したい → 高速なクエリ処理やストレージエンジンの選択肢が多いため、負荷の高いアプリケーションにも適用可能。
高負荷・大規模システムにはどちらが向いている?
MySQLが適しているケース
- 企業向けの安定した運用が必要 → 商用サポートが利用でき、エンタープライズ向けの機能が充実。
- クラウド環境での運用 → AWS、Google Cloud、Azureなどのクラウドサービスで最も広くサポートされている。
- MySQL 8.0の最新機能を活用したい → MariaDBにはない新機能が必要な場合。
商用利用や企業向けの選択肢
企業で利用する場合、次の基準で選ぶのが良いでしょう。
項目 | MySQL | MariaDB |
---|---|---|
商用ライセンス | 必要(Enterprise Edition) | 不要(完全オープンソース) |
企業向けサポート | Oracle提供(有償) | MariaDB社提供(有償) |
長期サポート | あり(LTSバージョン) | あり(ただしロードマップが独自) |
クラウド環境 | 広くサポート | 一部制限あり |
クラウドやホスティング環境での適性
クラウド環境での利用を考える場合、次のような選択肢があります。
クラウドサービス | MySQL | MariaDB |
---|---|---|
AWS RDS | ○ | ○ |
Google Cloud SQL | ○ | △(サポート範囲が限定的) |
Azure Database | ○ | × |
DigitalOcean | ○ | ○ |
MySQLのほうがサポート範囲が広いため、クラウド環境ではMySQLが有利です。ただし、MariaDBを選ぶことでライセンス費用を抑えるメリットもあります。
既存システムとの互換性を考慮した選び方
既存のMySQL環境をMariaDBに移行する場合
- MySQL 5.7以前のシステムであれば、MariaDB 10.xと比較的スムーズに互換性が確保される。
- MySQL 8.0の新機能(JSON、CTE、ウィンドウ関数)を利用している場合、MariaDBへの移行は慎重に検討すべき。
MySQLとMariaDB,結局どちらを選ぶべきか?
選択のポイントを整理
- 企業向けの安定運用と商用サポートが必要ならMySQL
- コストを抑えつつ高性能な環境を求めるならMariaDB
- クラウド環境での柔軟性を求めるならMySQL
- オープンソース環境で制約なく使いたいならMariaDB
利用用途に応じた推奨ケース
利用ケース | おすすめ |
---|---|
エンタープライズシステム | MySQL |
スタートアップ・個人開発 | MariaDB |
クラウドサービスとの連携 | MySQL |
オープンソースプロジェクト | MariaDB |
どちらを選んでも、運用のポイントを押さえれば後悔することはありません。適切な選択を行い、最適なデータベース環境を構築しましょう。