ゲーム開発において3Dモデルは、臨場感あふれるビジュアルや没入感のある世界観を作り上げる重要な要素です。
しかし、3Dモデルをうまく活用するためには、適切なツールの選択や、効率的な制作手法を知る必要があります。
本記事では、3Dモデルを用いたゲーム制作の際に役立つおすすめのツールや、プロジェクトを成功に導くためのポイントを解説します。
1. 人気ゲームに見る3Dモデルの活用例
1.1 ウマ娘 プリティーダービー
『ウマ娘 プリティーダービー』では、キャラクターの個性と感情を豊かに表現するため、以下の技術が採用されています。
- 表情の多様性:
眉、目、口の各パーツを組み合わせ、多彩な表情を実現しています。
さらに、涙やチーク、青ざめなどの表現を加えることで、キャラクターの感情を細やかに表現しています。 - 瞳のハイライト:
瞳のハイライトの位置や強度を調整し、キャラクターの感情や状況に応じた目の輝きを表現しています。
これにより、キャラクターの生き生きとした印象を強調しています。 - 濡れ・汚れ・汗の表現:
レース中の天候や状況に応じて、キャラクターの衣装や体に濡れや汚れ、汗の表現を追加し、臨場感を高めています。
これらは専用のテクスチャやマスクを用いて制御されています。
1.2 白猫プロジェクト
『白猫プロジェクト』では、スマートフォン向けゲームとして、以下の点に注力しています。
- 手描きテクスチャから高度なシェーダー表現への移行:
初期は手描きのテクスチャを使用していましたが、動的なライティングやノーマルマップを活用した高度なシェーダー表現に移行することで、表現力を向上させています。 - 質感の統一と再利用性の向上:
Adobe Substance 3D Collectionを導入し、金属や布などの質感をパラメータで設定・整理することで、キャラクターの見た目の統一性を確保し、再利用性の高いモデル・テクスチャの制作フローを実現しています。
1.3 原神
- Unityエンジンのカスタマイズ:
『原神』はUnityエンジンをベースに開発されており、特にコンソールプラットフォーム向けに最適化されています。 - レンダリングパイプラインの最適化:
高品質なグラフィックとパフォーマンスを両立させるため、独自のレンダリングパイプラインが構築されています。 - AIシステムの構築:
広大な世界や多数のNPCの行動を制御するため、スマートフォンにも適応したAIシステムが開発されています。
1.4 ゼンレスゾーンゼロ
『ゼンレスゾーンゼロ』は、未来感とスタイリッシュなキャラクターデザインが特徴のMiHoYo社が制作した新作ゲームであり、詳細は不明な箇所が多いため、公式からの情報や配布データから、以下の技術的特徴をあげます。
- 高精度な3Dスカルプティング:
キャラクターの細部まで作り込むため、ZBrushなどのスカルプティングツールが使用されている可能性があります。 - セルルックのレンダリング:
アニメ風のビジュアルを実現するため、セルシェーディング技術が活用され、独自のアートスタイルが確立されています。 - レイトレーシングの対応:
PlayStation版ではレイトレーシング技術が導入され、より現実的で豊かなグラフィック表現が可能となっています。 - 公式3Dモデルの配布:
公式サイトでは、キャラクターや武器の3Dモデルがpmx形式で無料配布されており、Blenderなどの3Dソフトウェアでの利用が可能です。
2. 3Dモデル制作に役立つツールと技術
2.1 Blender
Blenderは、オープンソースかつ無料で利用できる3Dモデリングソフトウェアです。
個人開発者からプロフェッショナルまで幅広いユーザーに支持されています。
• 主要機能:
- UV展開:
テクスチャをモデルに正確にマッピングするためのツールが充実しています。
アニメ風のキャラクターを制作する際に重要な工程です。 - リギング:
キャラクターの骨格を設定する機能。
リグの自動生成やウェイトペイント機能により、アニメーション制作が効率的に行えます。 - スカルプティング:
手描きのようにモデルを彫刻できるスカルプトモードが備わっており、有機的な形状やディテールの追加が可能です。
• 活用例:
- 『ウマ娘』や『白猫プロジェクト』のようなアニメ調キャラクター制作で効果を発揮します。
手描き風のテクスチャとポリゴン数を抑えた軽量モデルの制作が可能です。
• 追加機能と拡張性:
- アドオン(プラグイン)を追加することで、Substance PainterやZBrushとの連携が可能です。
- 動画編集機能やVFXツールも統合されており、オールインワンでの制作環境を提供します。
2.2 Unreal Engine
Unreal Engineは、高度なグラフィック表現と拡張性を持つゲームエンジンで、AAAタイトルの開発にも利用されています。
• 主要機能:
- ナノマイト(Nanite)技術:
Unreal Engine 5で導入されたこの技術により、膨大なポリゴン数のモデルを効率的にレンダリング可能です。
広大なオープンワールド制作に最適です。 - ルーメン(Lumen)ライティング:
リアルタイムでのグローバルイルミネーションを実現し、現実的な光の反射や影の表現が可能です。 - ブループリントビジュアルスクリプティング:
プログラミングの知識がなくても、視覚的なノードベースのスクリプティングで高度な動作を設定できます。
• 活用例:
- 『原神』のように広大なワールドとリアルなライティングが必要なプロジェクトに最適です。
特にPBR(物理ベースレンダリング)との相性が良いです。
• 学習リソース:
- Epic Gamesが提供する公式チュートリアルやアセットストアを利用することで、効率的に開発環境を整えることができます。
2.3 ZBrush
ZBrushはスカルプティングに特化した3Dモデリングツールで、高精度なディテールを求めるキャラクターやクリーチャーデザインに最適です。
• 主要機能:
- ダイナメッシュ(DynaMesh):
ポリゴン数を自動調整しながらモデリングを進められるため、自由度の高いデザインが可能です。 - サブツール:
複数のパーツを管理しやすく、複雑なモデル制作が効率的に行えます。 - ハードサーフェスモデリング:
機械的なデザインや武器、メカニック系のモデリングも得意です。
• 活用例:
- 『ゼンレスゾーンゼロ』のようなディテール豊かなキャラクターやスタイリッシュな武器デザインに最適。
オリジナリティの高いキャラクター制作に貢献します。
• エクスポート機能:
- モデルをBlenderやUnreal Engineに簡単にエクスポートでき、ゲームエンジン向けのデータ形式に対応しています。
2.4 Substance Painter
Substance Painterは、3Dモデルにリアルなテクスチャを描画するための専用ツールです。特にPBRマテリアルの作成に優れています。
• 主要機能:
- スマートマテリアル:
モデルのエッジや凹凸部分に自動的に汚れや傷を追加できる高度なテクスチャリング機能。 - リアルタイムプレビュー:
作成したマテリアルをリアルタイムで確認でき、ゲームエンジンとの統合がスムーズです。 - 複数チャンネル対応:
カラーマップ、ノーマルマップ、メタルネスマップなど、ゲームエンジン用の複数のテクスチャを一度に生成可能。
• 活用例:
- 『原神』のようなリアルな質感や光沢を持つキャラクター・オブジェクト制作に使用されます。
• エコシステムとの連携:
- Substance Designerとの連携で、独自のスマートマテリアルを作成できます。
Unreal EngineやUnityと直接連携できるのも大きな利点です。
3. 人気ゲームの成功から学ぶ開発のコツ
3.1 スタイルに応じたモデリング手法を選択する
ゲームのジャンルや目指すビジュアルスタイルに応じて、適切なモデリング手法を選ぶことが成功の鍵です。
• アニメ風
- 特徴:
シンプルなカラーパレットや手描き風のテクスチャを使用し、親しみやすく軽快な印象を与えます。 - 例:
• 『ウマ娘 プリティーダービー』では、セルシェーディングを活用し、アニメーション表現をモデルに取り入れています。
• 『白猫プロジェクト』では軽量化されたデザインとテクスチャがモバイルゲームに適したパフォーマンスを提供しています。
- 技術ポイント:
• 手描き風のテクスチャは、UV展開を工夫して効率よく描く。
• ライティングを抑え、色彩表現を優先させるセルルックシェーダーを利用する。
• リアル調
- 特徴:
PBR(物理ベースレンダリング)を活用し、リアリティとアートスタイルの両立を図る。 - 例:
• 『原神』はリアルな光と影をベースに、アニメ風のキャラクターデザインを融合させています。
• 『ゼンレスゾーンゼロ』は、リアルな質感と未来的なデザインを兼ね備えています。 - 技術ポイント:
• PBRテクスチャの作成では、Substance PainterやDesignerを活用。
• リアルタイムライティング技術を駆使して、自然な光の反射や影を演出する。
3.2 最適化を徹底する
ゲーム開発では、ビジュアルとパフォーマンスのバランスが重要です。
特に、モバイルゲームやクロスプラットフォーム展開を目指す場合には最適化が不可欠です。
• ポリゴン数の管理とディテール再現
- モデルのポリゴン数を抑えることが基本ですが、ディテールを維持するために「ノーマルマップ」や「ディフューズマップ」を使用して質感を再現します。
- ベイク技術を活用し、ディテールを低ポリゴンモデルに統合することで、負荷を軽減します。
• テクスチャの圧縮とLOD
- 大きなテクスチャはゲームの読み込み速度やメモリ使用量に影響します。
PNGやJPEGの圧縮形式を使用しつつ、ゲームエンジンに最適な形式に変換します。 - LOD(Level of Detail)を設定し、カメラの距離に応じてモデルの詳細度を調整することで、パフォーマンスを向上させます。
• モバイル向けの工夫
- 『白猫プロジェクト』のように、軽量なアニメ風デザインを採用し、負荷の少ない表現を心がける。
- キャッシュ技術を使い、データのロード時間を短縮する。
3.3 キャラクターアニメーションの工夫
魅力的なキャラクターを作るためには、モデルだけでなく、動きにも工夫が必要です。
• モーションキャプチャと手動調整の融合
- 『ウマ娘』ではモーションキャプチャで取得した動きに手作業の調整を加え、キャラクターの特徴や感情を豊かに表現しています。
- 瞬きや細かい表情変化などのモーションは、手動で追加し自然な仕上がりを目指します。
• ゲームエンジンのアニメーションツールを活用
- Unityの「Timeline」やUnreal Engineの「Sequencer」を使用することで、ストーリーやイベントシーンを効果的に演出できます。
- IK(インバースキネマティクス)を取り入れ、キャラクターの動きがリアルな環境に適応するように設定します。
• ユーザーの没入感を高める細かい演出
- キャラクターの動きに天候や環境要素を組み合わせる。
例として、『原神』では雨の日に衣服が濡れる表現や風に髪が揺れる演出があります。 - アニメーションとサウンドエフェクトを同期させることで、没入感を向上させる。
4. 開発環境を整えるヒント
4.1 アセットの活用
ゲーム制作の初期段階では、既存のアセットを活用することで効率を大幅に向上させることができます。
• アセットストアの活用
- Unity Asset StoreやUnreal Marketplaceには、高品質な背景モデル、アニメーション、エフェクトなどが数多く提供されています。
特に、以下のようなアセットが役立ちます:
• 背景モデル:
森、街、ダンジョンなど、汎用的な環境アセットを使用して素早くプロトタイプを構築。
• キャラクターアニメーション:
人物やクリーチャーの基本的な動きをカバーするパックを利用。
• エフェクト素材:
爆発、光の軌跡、雨や霧など、ゲームに臨場感を加えるエフェクトを追加。
• 利用例:
- 『ウマ娘』の初期プロトタイプで、トラックの背景を簡易なアセットで再現し、モーションキャプチャの検証を実施したといわれています。
• カスタマイズ可能なアセットを選択
- アセットをそのまま使用するのではなく、プロジェクトに合わせてカスタマイズすることで独自性を高める。
- モデルやアニメーションのデータを編集できる形式(FBX、OBJ、TGAなど)のアセットを選ぶと、後から細かい調整が可能です。
4.2 チームでの効率的な開発
複数人でのゲーム開発では、チーム全体がスムーズに連携できる環境を構築することが重要です。
• バージョン管理ツールの導入
- Git:
分散型バージョン管理システムで、小規模から大規模なチームまで対応可能。
GitHubやGitLabでプロジェクトを共有し、リモートでの共同作業を促進します。 - Perforce:
特に大規模プロジェクトに適しており、大量のアセットやソースコードの管理に向いています。AAAタイトルの開発現場で多く使用されています。
• ワークフローの整備
- プロジェクトのディレクトリ構造や命名規則を統一し、誰が作業しても混乱しない環境を整えます。
- チーム間でのタスク管理にはJiraやTrelloを利用し、進行状況を可視化します。
• コラボレーションツール
- SlackやDiscordを使用してコミュニケーションを円滑に。
チャンネルを機能やセクションごとに分けると効率的です。 - 画面共有が可能なツール(Zoom、Microsoft Teamsなど)でリモート環境でもデザインレビューやアイデア共有を行います。
4.3 テストとフィードバック
人気ゲームの多くは、テストとフィードバックを繰り返しながらクオリティを向上させています。
• プロトタイピングで早期検証
- 初期段階では簡易なプロトタイプを作成し、操作感やゲーム性を検証します。
これにより、大きな修正を避けることができます。 - 利用例:
『白猫プロジェクト』の初期テストでは、スワイプ操作の快適さを検証するため、シンプルなモデルでUI操作をテストしています。
• テストの自動化
- 定期的に行うテストには、自動化ツールを導入します。
UnityではTest Runner、Unreal EngineではAutomation Frameworkが利用可能です。 - 自動化でバグを早期に検出し、リリース前の品質を確保します。
• ユーザーフィードバックの収集
- クローズドβ版をリリースし、ユーザーから操作性やバランスについてフィードバックを得ます。
- 『原神』のようにコミュニティを通じたフィードバック収集を行うことで、継続的な改善が可能になります。
• テストプレイでリアルなフィードバックを取得
- 開発者だけでなく第三者によるテストプレイを行い、バグや不自然な挙動をチェック。ユーザー目線での改善ポイントを発見します。
まとめ
3Dモデルを活用したゲーム制作は、魅力的なゲーム体験を作り出す可能性を秘めています。
適切なツールを選び、効率的な開発プロセスを採用することで、より良い成果を短期間で達成できます。
ぜひ本記事を参考に、次回のプロジェクトで新たな挑戦をしてみてください!