設計基礎(5) 〜設計書のレビューと管理〜

設計書はシステム開発における重要なドキュメントであり、プロジェクトの成功に不可欠な役割を果たします。

しかし、どんなに優れた設計書であっても、それが正確かつ最新でなければ、その効果を十分に発揮することはできません。

本講座では、設計書のレビュープロセスとバージョン管理の重要性について学びます。

1. 設計書のレビュープロセス

設計書の品質を確保するためには、複数の視点からのレビューが不可欠です。

レビューはピアレビュー (Peer Review)ウォークスルー (Walkthrough)と呼ばれる2つの方法で実施されることが一般的です。

ピアレビュー (Peer Review)

ピアレビューは、設計書に対する客観的な評価を得るためのプロセスです。

このレビューは、設計書の論理的整合性、技術的妥当性、そして要件との整合性を確認することを主な目的としています。

「ピアレビュー」という言葉は、英語の “peer”(同僚、仲間)と “review”(評価、審査)から成り立っています。

この用語はもともと学術論文や研究の審査プロセスで使われており、同じ分野の専門家(ピア)が他の専門家の仕事を評価することを意味していました。

ソフトウェア開発やシステム設計の文脈においても、同僚やチームメンバーが互いに設計書やコードを評価するプロセスが重要視されるようになり、その名称として「ピアレビュー」が採用されました。

このプロセスは、専門知識を持った「ピア」たちによるフィードバックを通じて、文書やシステムの品質を向上させる目的があります。

設計書の作成者が見落としがちな点や、チーム全体に影響を与える潜在的な問題を早期に発見するため、ピアレビューは非常に有効です。

1.1 ピアレビューの目的:

ピアレビューは、設計書に対する客観的な評価を得るためのプロセスです。このレビューは、設計書の論理的整合性、技術的妥当性、そして要件との整合性を確認することを主な目的としています。設計書の作成者が見落としがちな点や、チーム全体に影響を与える潜在的な問題を早期に発見するため、ピアレビューは非常に有効です。

1.2 ピアレビューの実施手順:

  • レビュー計画の策定: ピアレビューを行う前に、レビューの対象範囲、参加者、スケジュールを明確にします。これにより、効率的かつ効果的なレビューが可能となります。
  • レビューチームの選定: レビューには、設計書の内容に関連するスキルや経験を持つメンバーを選定します。これには、設計者自身とは異なる役割を持つメンバーが含まれることが望ましいです。
  • レビューセッションの実施: レビューチームが設計書をチェックし、意見や改善点を提案します。この際、レビューチェックリストを活用して、漏れなく確認を行うことが推奨されます。
  • フィードバックの集約と対処: レビューで出されたフィードバックは集約され、設計者に伝えられます。設計者はこれに基づいて修正を行い、再レビューが必要な場合は、再度プロセスを繰り返します。

1.3 ピアレビューの効果:

  • 品質向上: ピアレビューは、異なる視点からのフィードバックを得ることで、設計書の品質を高めます。これにより、設計書の誤りや不整合が減少し、プロジェクトの進行がスムーズになります。
  • 知識の共有: チーム内でのピアレビューは、設計内容の理解を深めるだけでなく、チームメンバー間での知識共有を促進します。これにより、プロジェクト全体の技術的な理解が向上します。

ウォークスルー (Walkthrough)

ウォークスルーは、設計書の作成者が他のチームメンバーに設計書の内容を説明し、意見を求める形式のレビューです。

通常、ウォークスルーは会議形式で行われ、参加者は質問やコメントを交えることで設計書の理解を深め、潜在的な問題点を明らかにします。

「ウォークスルー」という言葉は、英語の “walk through”(歩き回る、通り抜ける)から派生しています。

この言葉は元々、建築や観光業などで使用され、施設や建物の内部を案内しながら説明する行為を指していました。

ソフトウェア開発やシステム設計の分野では、設計書の内容を説明しながら関係者が一緒に確認し、理解を深めるプロセスとして「ウォークスルー」という名前が採用されました。

つまり、設計者が設計書を「歩きながら説明する」ように進めるプロセスが、この名称の由来となっています。

2.1 ウォークスルーの目的:

ウォークスルーは、設計書の内容を関係者全員で共有し、潜在的な問題点や改善点を議論するプロセスです。通常、設計者が主導となり、設計の背景や意図を説明しながら、設計書の各部分を順に確認していきます。これにより、設計書が関係者全員にとって理解しやすく、実際の開発や運用に適合しているかを検証します。

特にSES業界では、顧客からの設計書に対する指摘や要望などがたくさん出てくるため、ウォークスルーは非常に重要になってきます。

2.2 ウォークスルーの実施手順:

  • 準備段階: ウォークスルーを実施する前に、設計書の内容を整理し、説明ポイントを明確にします。また、ウォークスルーの参加者には事前に資料を配布し、予習を促します。
  • ウォークスルーセッション: セッションでは、設計者が設計書の各セクションを説明し、参加者がその内容について意見を述べます。参加者は、疑問点や懸念点を積極的に表明し、それに対して設計者が回答します。
  • 結果の整理: セッションで得られたフィードバックは、設計書の改善に役立てられます。必要に応じて、ウォークスルーの内容を反映した設計書の修正が行われ、関係者に再配布されます。

2.3 ウォークスルーの効果:

  • 共通理解の形成: ウォークスルーを通じて、設計の意図や背景が関係者全員に共有されます。これにより、設計書に対する共通の理解が形成され、後の開発や運用フェーズでの誤解やトラブルが減少します。
  • 潜在的な問題点の早期発見: ウォークスルーでは、複数の視点から設計書がチェックされるため、設計段階での潜在的な問題点を早期に発見できます。これにより、後の開発フェーズでの修正コストを低減できます。

2. 設計書のバージョン管理と更新

設計書はプロジェクトの進行中に変更が必要になることが頻繁にあります。これらの変更を適切に管理し、設計書の整合性と正確性を保つためには、バージョン管理と更新プロセスが非常に重要です。

先述の通り、SES業界では、顧客からの設計書に対する指摘や要望などがたくさん出てくるため、設計書の頻繁なバージョンアップは必ずと言っていいほど起こります。

バージョン管理

1.1 バージョン管理の目的:

バージョン管理は、設計書の異なる版(バージョン)を管理し、変更履歴を追跡するための仕組みです。

これにより、過去のバージョンに戻ることが可能になり、設計書の変更内容とその影響を正確に把握することができます。

バージョン管理を適切に行うことで、設計書の信頼性が向上し、プロジェクトの進行が円滑になります。

1.2 バージョン管理の手法:

  • バージョン番号の付与: 設計書に対して一意のバージョン番号を付与します。一般的には、主要バージョンと副次バージョン(例: 1.0, 1.1, 2.0)の形式が使用され、重要な変更が加えられた場合に主要バージョンを更新し、軽微な修正時には副次バージョンを更新します。基本は副次バージョンの更新が多いです。
  • 変更履歴の記録: 各バージョンには、変更の内容、変更を行った日時、担当者、そして変更理由を明記した履歴を記録します。これにより、誰がどのような変更を行ったのかを容易に追跡できます。
  • バージョン管理システムの利用: Gitなどのバージョン管理システムを使用することで、設計書の変更履歴を効率的に管理することができます。これにより、複数の開発者が同時に設計書を編集しても、変更内容が競合しないように管理できます。

1.3 バージョン管理の効果:

  • 透明性の向上: 変更履歴が明確に記録されているため、チーム全体で設計書の進捗状況を共有でき、透明性が高まります。
  • リスク管理: 変更によるトラブルや誤解が発生した場合でも、過去のバージョンに戻ることで、問題を迅速に解決できます。これにより、プロジェクトのリスクを低減できます。

設計変更時のドキュメント更新方法

2.1 設計変更の重要性:

プロジェクトの進行中に設計変更が必要になることは避けられません。

変更が生じた際には、その変更が設計書全体に及ぼす影響を正確に把握し、関連するすべての設計書を適切に更新することが求められます。

このプロセスを怠ると、設計書の不整合が発生し、プロジェクトに重大な影響を与える可能性があります。

2.2 設計変更のプロセス:

  • 影響範囲の特定: 設計変更が必要になった場合、まずその変更がどの部分に影響を及ぼすかを特定します。これには、直接的な影響だけでなく、関連する他の設計書やシステム全体への影響も含まれます。
  • 変更内容の記録: 設計書の更新時には、変更内容を明確に記録します。変更理由、変更の目的、そしてその結果として期待される効果をドキュメントに含めることで、他のチームメンバーが変更の背景を理解しやすくなります。
  • ドキュメントの更新: 影響を受けるすべての設計書を更新し、新しいバージョンとして保存します。この際、変更点を強調する(例えば、色を変える、注釈を付ける)ことで、他のメンバーがどの部分が更新されたかをすぐに把握できるようにします。

2.3 設計変更後の確認:

  • レビューの実施: 更新後の設計書は、必ずレビューを行い、変更内容が正確であるか、また他の部分に不具合が生じていないかを確認します。このレビューには、設計変更に関与したメンバーだけでなく、他の関連メンバーも参加することが望ましいです。
  • 共有とコミュニケーション: 更新された設計書は、関係者全員に速やかに共有されるべきです。また、変更内容やその影響についてのコミュニケーションを徹底し、誤解や混乱を防ぎます。

2.4 設計変更時のドキュメント更新方法の効果:

  • プロジェクトの整合性維持: 設計変更が適切に反映されることで、プロジェクト全体の整合性が保たれ、変更による混乱を最小限に抑えます。
  • 効率的なプロジェクト進行: 設計変更がスムーズに行われることで、プロジェクトの遅延やコスト増加を防ぐことができます。

まとめ

設計書のレビューとバージョン管理は、システム開発における品質管理の要です。

適切なレビューを行い、設計書の内容を多角的に検証することで、プロジェクト全体のリスクを低減することができます。

また、バージョン管理を徹底することで、設計書の正確性と一貫性を保つことができ、プロジェクトのスムーズな進行に寄与します。

本章で学んだプロセスと方法を実践することで、より高品質な設計書を作成し、プロジェクトの成功に貢献しましょう。

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