日本のエンジニア、特にシステムエンジニアが「給料が安すぎる」と感じる背景には、業界特有の構造的な問題が深く関係しています。その最たるものが「多重下請け構造」と「年功序列」の慣行です。
多重下請け構造とは、大手ITベンダーが元請けとして案件を受注し、その業務が複数の下請け企業、さらにその下の孫請け企業へと細分化されて発注されていく仕組みです。この構造では、中間に入る企業がそれぞれマージンを取るため、最終的に現場で働くエンジニアの手元に渡る報酬は大きく目減りしてしまいます。特に末端の下請けやSES(System Engineering Service)企業に所属するエンジニアは、どれだけ高度なスキルや専門性を持っていても、案件単価の上限が低く抑えられがちです。結果として、労働に見合った適正な対価が得られにくい状況が生まれています。
また、日本の企業文化に根強く残る「年功序列」も、若手や実力のあるエンジニアの給料が上がりにくい一因です。欧米諸国ではスキルや成果に基づいた評価・報酬体系が一般的ですが、日本では勤続年数や年齢に応じて給与が上昇する傾向が強く、若くして高い技術力を持つエンジニアが正当に評価されにくい環境があります。これにより、早期にキャリアアップや年収アップを目指すエンジニアが、実力を発揮しきれないまま停滞してしまうケースも少なくありません。これらの構造的な問題が複合的に絡み合い、「エンジニアの給料は安すぎる」という認識に繋がっています。
エンジニア年収の平均・中央値・ランキング – データで見る現状
「エンジニアの給料は安すぎる」という声は主観的なものですが、実際のデータはどうなっているのでしょうか。ここでは、エンジニアの年収に関する平均値、中央値、そして職種やスキルによるランキングを概観し、データで現状を把握します。
国際比較で見る日本のIT人材年収の実態
各国のIT人材の年収分布を見ると、日本のエンジニアの給与水準が国際的に見て著しく低いことが明らかになります。具体的なデータを見ると、以下のような深刻な格差が存在しています。

年収分布の国際比較:
- 米国:年収1,000万円から2,000万円の間に最も多くのIT人材が分布
- 中国:年収500万円前後に分布の中心があるものの、高年収層も厚い
- 韓国:年収600万円~800万円程度に分布
- 日本:年収500万円前後に分布が集中し、高年収層が極めて薄い
平均年収の国際比較: IPA(情報処理推進機構)の調査データによると、各国のIT人材の平均年収は以下の通りです:
- 米国:約1,157万円
- 中国:約598万円
- 韓国:約533万円
- インド:約498万円
- 日本:約354万円
この数字が示すのは、日本のIT人材の平均年収が米国の約3分の1、中国の約6割程度という厳しい現実です。特に注目すべきは、日本の年収水準が2番目に低いという点で、IT先進国としての地位とは大きくかけ離れた状況となっています。
年収分布の特徴: 各国のIT人材の年収分布を詳しく見ると、さらに深刻な問題が浮き彫りになります:
- 米国の特徴:年収1,000万円を超える高年収層が全体の相当な割合を占め、2,000万円超の超高年収層も存在
- 中国の特徴:年収500万円前後がボリュームゾーンだが、1,000万円超の高年収層も一定数存在
- 日本の特徴:年収500万円前後に分布が集中し、1,000万円を超える高年収層が極めて少ない
日本のIT人材が直面する給与格差の要因:
- 市場規模と企業収益力の差:米国のIT企業は全世界を市場とし、高い収益性を実現している一方、日本のIT企業の多くは国内市場中心で収益力に限界がある
- 人材の流動性の違い:米国では優秀な人材を獲得するための激しい競争があり、それが高年収に繋がっている。日本では終身雇用の影響で人材流動性が低く、給与競争が起きにくい
- 技術革新への取り組み差:GAFAMをはじめとする米国企業は最先端技術開発に巨額投資を行い、それに見合った高年収を提示。日本企業は保守的な技術投資傾向
- 労働市場の構造的違い:日本特有の多重下請け構造により、最終的にエンジニアに還元される報酬が大幅に目減り
この国際比較データは、「エンジニアの給料安すぎ」という声が単なる感覚ではなく、客観的なデータに裏付けられた深刻な問題であることを示しています。日本のITエンジニアが年収アップを目指すには、この現実を踏まえた戦略的なアプローチが不可欠と言えるでしょう。
一般的に、日本のエンジニア全体の平均年収は、他の職種と比較して高い水準にあるとされていますが、これはあくまで国内比較での話です。職種や経験年数、企業規模、そして地域によって大きな差があります。例えば、AIエンジニアやデータサイエンティストといった最新技術を扱う職種は比較的高年収である一方、汎用的なシステム開発を行うエンジニアや、未経験からスタートしたITエンジニアの年収は平均を下回る傾向にあります。
また、平均値だけでなく「中央値」に注目することも重要です。平均値は一部の高年収者が全体を引き上げる傾向があるため、より実態に近いのが中央値です。多くの統計データでは、日本のITエンジニアの中央値は平均値よりも低い傾向にあり、これが多くのエンジニアが「給料が安すぎる」と感じる要因の一つとなっています。
年収ランキングを見ると、企業規模が大きく、自社サービスを展開する事業会社や、外資系のIT企業に勤めるエンジニアは高年収である傾向が顕著です。一方で、多重下請け構造の末端に位置する中小企業や、特定の技術に特化しないSES企業では、年収が伸び悩むケースが多く見られます。これらのデータは、一括りに「エンジニア」と言っても、その働き方や所属する企業によって年収の現状が大きく異なることを示しています。
「給料安すぎ」と感じるレベルは?年収400万は低すぎ?知恵袋や実体験の声
「エンジニアの給料が安すぎる」という感覚は、個人の生活水準や期待値によって大きく異なります。しかし、多くのエンジニアが具体的な金額として「安すぎる」と感じ始めるレベルはどのあたりなのでしょうか。インターネット上のQ&Aサイト「知恵袋」やSNS、実際のエンジニアたちの声から、その実態を探ります。
よく耳にするのが「年収400万円はエンジニアとして低すぎるのか?」という問いです。大卒でIT業界に入り数年が経過したエンジニアの中には、この年収帯で停滞していると感じる人が少なくありません。特に、情報系の学部を卒業し、専門的な知識を身につけているにも関わらず、新卒から大きく年収が伸びないことに不満を感じるケースが見受けられます。
知恵袋などのQ&Aサイトでは、「エンジニア歴5年で年収350万円は普通ですか?」「残業ばかりで年収400万円は割に合わない」といった相談が頻繁に投稿されています。これらの声からは、単に金額の多寡だけでなく、業務内容の負荷や、身につけたスキルに対する正当な評価が得られていないと感じる不満が根底にあることが伺えます。
実体験の声としては、地方のエンジニアや、SES企業で単価の低い案件にアサインされ続けているエンジニアが、「どれだけ頑張っても年収が上がらない」「生活が苦しい」と感じているケースが多いようです。一方で、都心の大企業や、特定の専門分野で突出したスキルを持つエンジニアは、同年代で高年収を得ていることもあり、そうした情報が「自分は安すぎる」という相対的な不満につながることもあります。
これらの声を集約すると、「給料安すぎ」と感じるレベルは、その人の年齢、経験年数、そして特に「市場価値」とのギャップに起因していると言えるでしょう。自身のスキルや経験が、現在の年収に反映されていないと感じる時に、多くのエンジニアがこの不満を抱くようです。
エンジニアの給料が安い理由と問題点
市場価値の過小評価とスキルのミスマッチ
「エンジニアの給料が安すぎる」と感じる大きな理由の一つに、市場価値の過小評価とスキルのミスマッチがあります。特に日本では、エンジニアという職種全体が、その専門性や創造性に見合った対価を受けにくい傾向があります。企業側がエンジニアの技術力を単なる「コスト」と見なし、投資対象としての「価値」を認識しきれていないケースも少なくありません。
この過小評価は、特に汎用的なスキルを持つエンジニアに顕著です。例えば、特定のプログラミング言語を使えるだけでなく、プロジェクト管理能力やビジネス理解、コミュニケーション能力といった多角的なスキルを持つエンジニアの市場価値は高まります。しかし、企業がこれらの複合的なスキルを適切に評価できない場合、結果として給与に反映されず、エンジニアは自身のスキルが正当に評価されていないと感じてしまいます。
また、企業が求めるスキルとエンジニアが持つスキルの間にミスマッチが生じていることもあります。最新技術へのキャッチアップが不十分だったり、企業がレガシーシステムからの脱却を求めているにも関わらず、エンジニアが新しい技術習得に積極的でない場合などです。市場の需要と供給のバランスが崩れると、特定のスキルを持つエンジニアの供給過多となり、結果として給与水準が上がりにくくなる現象も発生します。自身のスキルセットが現在の市場でどの程度の価値を持つのかを理解し、常に最新のトレンドに対応していくことが、この問題を解決する鍵となります。
技術者不足・需要の高まりと逆行する給与水準
皮肉なことに、「エンジニアの給料が安すぎる」という認識とは裏腹に、日本は深刻なIT人材不足に直面しています。経済産業省の予測によれば、2030年には最大で79万人ものIT人材が不足するとされています。これは、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進や新たなテクノロジーの登場により、IT技術への需要が急速に高まっているためです。
通常、需要が高まれば供給側の報酬も上昇するのが経済の原則です。しかし、日本のエンジニアの給与水準は、この需要の高まりに必ずしも比例して上昇しているとは言えません。なぜこのような逆行現象が起きるのでしょうか。
一つの要因として、企業がIT投資を「コスト削減」や「業務効率化」の手段と捉えがちである点が挙げられます。イノベーションや新たな価値創造のための投資と認識しづらいため、エンジニアへの投資、特に人件費の引き上げには慎重な姿勢を取りがちです。
また、即戦力人材の偏重も問題です。企業は、未経験者の育成には時間とコストがかかるため、すぐに業務に投入できる経験者ばかりを求めます。これにより、特定のスキルを持つ経験者は高待遇を得られる一方で、これからスキルを身につけようとする若手や異業種からの転職希望者は、厳しい給与水準でスタートせざるを得ない状況が生まれています。結果として、技術者不足が叫ばれる一方で、一部のエンジニアは「給料が安い」と感じる状況が継続しているのです。
職種・分野・企業規模による比較 – 特に安い業界・案件はどこか
「エンジニア」と一括りにしても、その給与水準は職種、専門分野、そして企業規模によって大きく異なります。「給料が安すぎる」と感じるエンジニアが多い一方で、高年収を得ているエンジニアも存在するのは、この多様性のためです。
例えば、Webエンジニアやフロントエンドエンジニアは比較的新しい分野であるため、スキルセットによっては高単価の案件に恵まれることがあります。また、AIエンジニア、データサイエンティスト、クラウドエンジニア(AWS, Azure, GCPなど)といった最先端技術を扱う専門家は、需要が非常に高いため、高額な報酬が提示される傾向にあります。これに対し、汎用的な業務システム開発を行うシステムエンジニア(SE)や、プログラマーといった職種は、供給も多いため相対的に給与水準が低めに設定されがちです。特に、古くから存在する業界や、レガシーシステムを多く抱える企業では、最新技術への投資が遅れ、エンジニアの給与も伸び悩む傾向が見られます。
企業規模も重要な要素です。一般的に、大手ITベンダーや自社サービスを展開するIT企業、外資系企業は、中小企業や受託開発を主とする企業と比較して、給与水準が高い傾向にあります。これは、経営基盤の安定性、利益率の高さ、そして優秀な人材確保への積極的な投資があるためです。特に、多重下請け構造の最下層に位置する中小企業や、特定のスキルを必要としない「人月単価」での案件が多い企業では、エンジニアの給与が「安すぎる」と感じる水準になりやすいと言えます。自分の専門分野や目指すキャリアパスに合わせて、給与水準の高い職種や企業規模を意識することが、年収アップへの第一歩となります。
下請け・SES・派遣など雇用形態の違いがもたらす影響
エンジニアの給与水準に大きな影響を与えるのが、雇用形態の違いです。特に「多重下請け構造」の日本では、下請け、SES(System Engineering Service)、派遣といった形態で働くエンジニアが非常に多く、これらの雇用形態が「給料安すぎ」問題の温床となっているケースが少なくありません。
まず、下請けは、元請け企業から案件の一部を受注し、その業務を遂行する形態です。特に中小規模の企業がこの形で業務を受けることが多く、元請けからの受注単価が低い場合、当然ながらそこで働くエンジニアの給与も低く抑えられます。さらに、案件の管理コストや営業費用も含まれるため、実際の作業単価はさらに下がります。
次に、SES(System Engineering Service)は、自社のエンジニアを顧客企業に常駐させ、システム開発や保守・運用などの技術を提供するサービスです。SES企業はエンジニアのスキルを顧客企業に提供することで対価を得ますが、エンジニア個人のスキル単価と、実際にエンジニアに支払われる給与の間には大きな差があることが少なくありません。これが、多くのSESエンジニアが「給料が安い」と感じる最大の要因です。企業によっては、エンジニアの単価の半分以下しか給与として還元されないケースも報告されており、中間マージンの高さを問題視する声が上がっています。
そして派遣は、派遣会社に登録したエンジニアが、派遣先の企業で業務を行う形態です。SESと似ていますが、指揮命令系統が派遣先企業にある点が異なります。派遣の場合も、派遣会社がマージンを取るため、エンジニアが受け取る時給や月給は、派遣先企業が支払う単価よりも低くなります。
これらの雇用形態は、正社員であっても、自社開発企業や大手ITベンダーの正社員と比較して、給与が伸びにくい傾向にあります。自身の努力だけでは給与アップが難しい構造的な問題が、これらの雇用形態に潜んでいると言えるでしょう。
【原因別】給料を上げられない構造と評価軸
年功序列とマネジメント偏重 – 若手や女性が不利になる仕組み
エンジニアが給料を上げられない構造的な原因の一つに、日本の伝統的な年功序列制度と、マネジメント職への偏重があります。これらの仕組みは、特に若手エンジニアや女性エンジニアにとって、不公平感やキャリアアップの障壁となり、「給料が安すぎる」と感じる要因となり得ます。
年功序列制度の下では、個人の能力や成果よりも、勤続年数や年齢が給与や昇進に大きく影響します。これは、若くして高い技術力や実績を持つエンジニアが、年長の同僚よりも低い給与に甘んじることを意味します。スキルやアウトプットで評価される欧米諸国とは異なり、日本では「時間をかけること」が評価される傾向が強く、実力主義を求める若手エンジニアにとっては不満の対象となりがちです。
また、日本のIT業界では、技術のエキスパートとしてのキャリアパスよりも、マネジメント職への昇進が重視される傾向があります。優れた技術力を持つエンジニアが、管理職になることで給与が上がるケースは多いですが、これは同時に、技術を極めたい、あるいはマネジメントには興味がないエンジニアが、技術力を高めても給与が上がりにくいというジレンマを生み出します。特に女性エンジニアの場合、ライフイベントとキャリアの両立を考えた際に、技術職として長く働き続けたいというニーズが高いにも関わらず、マネジメント職に誘導されやすいことで、キャリアパスの選択肢が限定されることもあります。
これらの仕組みは、結果として技術力の高いエンジニアが「技術で稼ぐ」道を閉ざし、組織内で給与を上げるためにはマネジメントスキルを身につける必要があるという認識を広めています。
技術力・経験・資格の評価が不明瞭な実態
エンジニアが「給料安すぎ」と感じるもう一つの大きな原因は、企業内での技術力、経験、そして資格に対する評価基準が不明瞭であることです。多くの企業では、エンジニアのスキルや貢献度を客観的かつ適切に評価するシステムが確立されておらず、これが給与アップの阻害要因となっています。
具体的には、あるエンジニアが高度な技術スキルを習得し、難易度の高いプロジェクトを成功させたとしても、それが明確な評価基準に基づいて給与に反映されないことがあります。評価者の主観や、プロジェクトの「見えやすさ」に左右されやすく、裏方で重要な役割を担うエンジニアの貢献が見落とされがちです。
経験に関しても同様です。単に「経験年数」だけを見る企業は多くても、「どのようなプロジェクトで、どのような役割を担い、どのような課題を解決したか」といった具体的な経験の質を深く評価する仕組みは少ないのが現状です。結果として、経験の質が給与に反映されにくく、実力のあるベテランエンジニアでも給与が頭打ちになることがあります。
さらに、資格取得も給与アップに直結しないケースが多いです。IT系の資格は多岐にわたりますが、企業によっては資格手当が非常に少額であったり、そもそも資格取得が評価対象にならないこともあります。資格は知識の証明にはなりますが、それが実際の業務でどのように活用され、どれほどの価値を生み出したのかを明確に評価できる仕組みがなければ、給与アップには繋がりません。
これらの評価の不明瞭さは、エンジニアのモチベーション低下にも繋がり、結果として優秀な人材の流出を招く可能性もあります。企業側には、エンジニアの技術力や経験、そして資格が具体的にどのように企業価値に貢献しているのかを明確にし、公正に評価する仕組みの構築が求められます。
上司や制度、評価方法の課題
エンジニアの給料が上がらない構造には、企業内の上司や制度、そして評価方法そのものに潜む課題も深く関係しています。これらは、個々のエンジニアの努力だけでは変えにくい、根深い問題点として存在します。
まず、上司の評価能力が不十分なケースがあります。エンジニアリングの専門知識を持たない上司が、技術的な貢献を正しく評価できない、あるいはチームメンバーの成果を自分の手柄としてしまう、といった状況が考えられます。また、上司が多忙で部下一人ひとりの業務内容や課題解決への貢献度を細かく把握できていないことも、適正な評価を妨げる要因となります。これにより、頑張りが給与に反映されないという不満が募ります。
次に、評価制度そのものの課題です。多くの日本企業では、相対評価が採用されていることがあります。これは、組織内で決められた枠の中で評価を分配するため、たとえチーム全体のパフォーマンスが高くても、個人の評価が上げにくいという問題があります。また、目標設定が曖昧であったり、評価項目が抽象的すぎたりすると、エンジニアは「何をすれば評価されるのか」が分からず、結果としてモチベーションが低下します。
さらに、評価方法の透明性の欠如も大きな問題です。評価プロセスが不透明で、フィードバックが不足している場合、エンジニアは自身の評価がどのように決まったのか理解できません。納得感のない評価は、不信感を生み、組織へのエンゲージメントを低下させます。
これらの課題は、エンジニアが自身の市場価値を高めるための努力をしても、それが社内で正当に評価されず、結果として給料アップに繋がらないという悪循環を生み出します。企業側には、エンジニアの特性を理解した公正で透明性の高い評価制度の構築が強く求められています。
労働時間・案件単価・管理コストの実態
エンジニアの「給料安すぎ」問題の根底には、労働時間、案件単価、そして管理コストの実態が密接に関わっています。これらは特に、下請けやSES、派遣といった雇用形態で働くエンジニアに顕著な影響を与えます。
まず、労働時間です。日本のエンジニアは、長時間労働が常態化しているケースが少なくありません。特にプロジェクトの納期前やトラブル発生時には、サービス残業や休日出勤が求められることもあります。しかし、これらの長時間労働が正当な残業代として支払われなかったり、評価に繋がらなかったりする場合、時給換算での報酬は非常に低くなってしまいます。これは、エンジニアが「働いた分だけ報われない」と感じる大きな要因です。
次に、案件単価です。多重下請け構造において、元請けから下請けへと案件が流れるにつれて、その単価は大きく目減りしていきます。例えば、元請け企業が顧客から月額100万円で受注した案件でも、下請け、孫請けとなるにつれて、最終的に現場のエンジニアに割り当てられる単価が50万円、あるいはそれ以下になることも珍しくありません。この単価の低さが、エンジニアに支払われる給与の上限を決定づけてしまいます。どれだけ優れたスキルを持っていても、案件単価が低ければ、それに見合った報酬を得ることは困難です。
そして、管理コストも無視できません。企業は、エンジニアの給与以外にも、オフィス賃料、福利厚生、採用活動費、営業費用、管理部門の人件費など、様々なコストを負担しています。特に、SES企業や派遣会社の場合、エンジニアの稼働単価からこれらの管理コストを差し引いた上で、利益を確保し、残りをエンジニアの給与として支払うことになります。この管理コストが肥大化している場合、エンジニアに還元される金額はさらに少なくなってしまいます。
これらの要素が複雑に絡み合い、エンジニアの給与が実態に見合わない「安すぎる」水準に留まる構造を生み出しています。
エンジニアが年収アップするための具体的な方法・行動
市場価値を正しく知り獲得する – 相場・案件・平均給与の把握
「エンジニアの給料安すぎ」問題から脱却し、年収アップを目指すには、まず自身の市場価値を正しく知り、それを獲得するための行動を起こすことが不可欠です。闇雲にスキルアップを目指すのではなく、今の自分が市場でどれくらいの価値があるのか、どのようなスキルが求められているのかを把握することが第一歩です。
まず、現在の市場相場を把握しましょう。IT業界全体の平均年収だけでなく、自身の専門分野(Web、AI、クラウドなど)、経験年数、地域、そして具体的なスキルセット(言語、フレームワーク、ツールなど)に応じた相場を徹底的に調査します。求人サイト、転職エージェントの公開データ、給与統計サイトなどを活用し、具体的な数値を集めましょう。
次に、高単価の案件がどのようなスキルや経験を求めているのかを分析します。求人情報を細かく読み込み、繰り返し登場するキーワードや必須スキルを洗い出します。例えば、「AWSの構築経験」「Pythonでの機械学習開発経験」「マネジメント経験」などが挙げられるかもしれません。これらの情報から、自身のスキルをどの方向に伸ばすべきか、具体的な目標を設定できます。
そして、自身の現在の平均給与と比較します。もし現在の給与が市場相場よりも低いと感じるなら、それは年収アップの大きなチャンスです。このギャップを埋めるために、不足しているスキルを補強したり、現在の職場での評価制度を見直したり、あるいは転職を検討したりする具体的な行動計画を立てられます。
市場価値を正しく知り、自身の強みと弱みを客観的に把握することが、年収アップへの最も効果的な戦略となります。