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金融DXの現場から — レガシー刷新と内製化の実務ガイド

金融DXの現場から — レガシー刷新と内製化の実務ガイド

「2025年の崖」が現実となった2026年。経済産業省が2018年に警鐘を鳴らしてから8年が経過した今、金融機関のレガシーシステム刷新はもはや「やるかどうか」ではなく「どう進めるか」のフェーズに移っています。2025年5月にはソニー銀行がAWS上の新勘定系システムを稼働させ、2026年1月にはSBI新生銀行が次世代バンキングシステムへの刷新を発表しました。本記事では、金融情報システム開発に20年以上携わってきたSESエンジニアの視点から、COBOLからの移行、クラウドネイティブ化、そして内製化とSES活用のハイブリッドモデルまで、金融DXの実務を具体的に解説します。

金融DXの「2025年の崖」を超えた現在地

経産省DXレポートから8年 — 金融業界はどこまで進んだか

2018年9月、経済産業省は『DXレポート〜ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開〜』を発表し、日本企業が抱えるレガシーシステムの問題を明確に指摘しました。レポートの核心は、「老朽化・複雑化・ブラックボックス化した既存システムを放置すれば、2025年以降に年間最大12兆円の経済損失が生じる」という警告でした。

あれから8年。2025年5月に経産省が公表した「レガシーシステムモダン化委員会総括レポート」によると、ユーザー企業の61%がいまだレガシーシステムを保有し、大企業に限れば74%に達します。「2025年の崖」を「完全に乗り越えられた」と回答した企業はわずか7%にとどまり、約4割が依然として深刻な課題を抱えているのが実態です。

金融業界に限定すると、状況はさらに複雑です。オンラインバンキングシステムの4割以上はCOBOLを基盤としており、ATM取引の95%、対面のクレジットカード決済の80%がCOBOL上で動くシステムで処理されています。世界的に見ても金融取引の根幹はCOBOLに依存しており、これを「崖」の一言で片付けられるほど単純な問題ではありません。

メガバンク・地方銀行・ネット銀行で異なるDXの進捗と課題

金融DXの進捗は、金融機関の規模と業態によって大きく異なります。現場で20年以上プロジェクトに携わってきた実感として、以下の3つの層に分けて理解するのが実務的に正確です。

メガバンクは、膨大な既存資産と数千万口座規模のトランザクションを抱えながらも、潤沢な投資体力を活かして段階的なモダナイゼーションを進めています。三菱UFJフィナンシャル・グループは基幹システムの統合を経てAPIプラットフォームの整備に注力し、みずほフィナンシャルグループは2021年の大規模障害を契機にシステムガバナンスの抜本的な見直しを進めました。メガバンクの課題は「技術」よりも「組織」にあります。数百のシステム、数千のバッチジョブが複雑に絡み合う中で、全体最適の設計判断を下せるアーキテクトの不足が深刻です。

地方銀行は、IT投資の制約が最も厳しい層です。経営統合に伴うシステム統合や、共同センターへの参加によるコスト削減を進める一方、独自のデジタルサービス開発に割けるリソースは限られます。実際のプロジェクトでは、地銀の基幹システム刷新は5〜7年のスパンで進むことが多く、その間の「つなぎ」としてRPA導入やフロントエンドのモダン化を先行させるケースが多くなっています。

ネット銀行・新興銀行は、レガシーの制約が比較的少ないため、クラウドネイティブなアーキテクチャを前提に設計できます。ソニー銀行やみんなの銀行(ふくおかフィナンシャルグループ)の取り組みがこの層を代表します。ただし、新興銀行であっても規模の拡大に伴い技術的負債は蓄積されます。「レガシーのない銀行」は幻想であり、いかに負債を最小化しながら成長するかが問われます。

ソニー銀行AWS移行、SBI新生銀行次世代システム — 2025年の象徴的事例

2025年から2026年にかけて、金融DXの象徴となる2つの事例が注目を集めました。

ソニー銀行のAWS移行は、2025年5月に勘定系システム全体のAWS移行を完了した事例です。富士通と共同で構築した新勘定系は、AWS Fargateを活用したクラウドネイティブアーキテクチャで設計され、各種商品・サービスと取引機能をマイクロサービス化して実装しています。注目すべきは、勘定系業務アプリケーションの資産規模を従来の40%まで削減した点です。東京・大阪のマルチリージョン構成により高いレジリエンシーを確保し、2012年のフルオンプレミス時代と比較してCO2排出量を9割削減しています。

SBI新生銀行の次世代バンキングシステムは、2026年1月に発表されたクラウドネイティブな次期基幹システムの刷新計画です。フューチャーアーキテクトが開発し、SBI地方創生バンキングシステムを通じて提供する「次世代バンキングシステム」をAWS上に構築し、2029年度下期〜2030年度上期の稼働開始を目指します。同システムは既に福島銀行や島根銀行で稼働実績があり、SBI新生銀行の採用は6行目となります。SBIグループの「第4のメガバンク構想」を支える基盤として、業界の注目度は極めて高いといえます。

これらの事例は、金融勘定系のクラウド移行が「実験」から「実用」のフェーズに確実に移行したことを示しています。

レガシーシステム刷新の実務 — COBOLからの移行

なぜ金融のレガシー刷新は難しいのか — 3つの構造的要因

金融機関のレガシーシステム刷新が他業界と比較して困難な理由は、以下の3つの構造的要因に集約されます。

第一に、「止められない」という制約です。銀行のシステムは社会インフラであり、計画停止すら最小限に抑える必要があります。一般的なWebサービスであれば「メンテナンス中」の表示で数時間の停止も許容されますが、勘定系システムの場合、ATMや振込処理が止まれば社会的な影響は甚大です。現場では、移行作業のために許される停止時間が「金曜夜から月曜朝まで」の週末しかなく、しかもその間も自動振替やバッチ処理は動き続けなければならないケースが多くあります。

第二に、「間違えられない」という精度要件です。金融計算の世界では1円の誤差も許されません。利息計算、為替換算、税額計算など、業務ロジックの正確性は法令遵守に直結します。移行後に1件でも計算結果が異なれば、それは単なるバグではなく法令違反のリスクとなります。この精度要件が、移行プロジェクトのテスト工数を他業界の数倍に押し上げる原因となっています。

第三に、「規制が追いかけてくる」という動的な制約です。金融庁の「2025事務年度 金融行政方針」では、サイバーリスクやサードパーティリスクへの対応強化が明示されています。FISC(金融情報システムセンター)の安全対策基準も随時改訂が行われ、2025年3月には第13版が公表されました。レガシーシステムの刷新は数年がかりのプロジェクトになりますが、その間にも規制要件は変化し続けます。設計時に満たしていた基準が、稼働時には不十分になっている可能性すらあります。

リライト・リプレース・リホストの選択基準

レガシーシステムの刷新手法は、大きく3つのアプローチに分類されます。現場での経験から、それぞれの適用条件を整理します。

リホスト(Rehost)は、既存のアプリケーションをそのまま新しいインフラ基盤に移行する手法です。メインフレーム上のCOBOLをオープン系のCOBOL実行環境(Micro Focus COBOLなど)に移行するケースがこれにあたります。業務ロジックには手を入れないため、移行リスクは最も低くなります。ただし、根本的なアーキテクチャは変わらないため、保守性や拡張性の課題は残ります。「まず崖を避ける」ための応急処置としては有効であり、COBOLエンジニアの退職が差し迫っている場合の時間稼ぎにもなります。

リライト(Rewrite)は、業務ロジックを維持しつつ、プログラミング言語やフレームワークを刷新する手法です。COBOLからJavaやC#への書き換えが典型例です。ソニー銀行のケースは、この手法の大規模な成功例といえます。リライトの利点は、モダンな言語・フレームワークのエコシステムを活用できる点にあります。しかし、後述する「暗黙知」の問題に直面するリスクが最も高く、プロジェクト規模も大きくなりがちです。

リプレース(Replace)は、パッケージソフトウェアやSaaS/BaaSに置き換える手法です。SBI新生銀行が採用した「次世代バンキングシステム」はこのアプローチに近いものです。パッケージの機能にフィットする業務であれば最も効率的ですが、自社固有の業務ロジックとパッケージの標準機能との差異(フィット&ギャップ)をどう処理するかが成否を分けます。「パッケージに業務を合わせる」覚悟がないままリプレースに着手すると、大量のカスタマイズで却ってシステムが複雑化するという本末転倒な結果を招きます。

実際のプロジェクトでは、これらを単一のアプローチで進めることは稀です。勘定系のコアはリライトし、周辺系はリプレースし、当面改修の必要がないバッチ処理はリホストする、という複合アプローチが現実的な選択となります。

COBOL移行の落とし穴 — 業務ロジックの「暗黙知」問題

COBOL移行プロジェクトで最も危険な落とし穴は、仕様書に書かれていない業務ロジックがCOBOLのコードの中にしか存在しないという問題です。20年以上金融システム開発に携わってきた経験から断言できますが、この問題を軽視したプロジェクトは、ほぼ例外なく深刻なトラブルに見舞われます。

典型的なケースを挙げます。ある銀行の利息計算プログラムでは、COBOLコードの中に「特定の日付範囲で端数処理のルールが異なる」というロジックが埋め込まれていました。これは20年以上前の法改正に対応した際の修正で、当時の設計書は更新されておらず、当時の担当者はとうに退職していました。新システムのJava開発チームはこのロジックの存在に気づかず、移行後のテストで利息計算結果に差異が発生して初めて問題が発覚しました。

この種の「暗黙知」は、以下の形でCOBOLコードに潜んでいることが多くあります。

  • 条件分岐の深い階層: IF文のネストが10段以上になり、特定の条件の組み合わせでのみ発動する例外処理
  • マジックナンバー: コメントのない数値定数が業務上の重要なパラメータ(税率、手数料率、閾値など)を表している
  • コピー句(COPY文)の連鎖: 共通ロジックがCOPY句で複数プログラムに展開され、一部だけ微妙に異なる修正が加えられている
  • 暗黙のデータ変換: COBOLのPICTURE句による暗黙的な数値変換が、Javaでの明示的な型変換と微妙に異なる結果を生むケース

対策として、テンファイブでは移行プロジェクトの初期フェーズで徹底的なリバースエンジニアリングを実施します。具体的には、COBOLコードの静的解析ツールによるロジック抽出、業務部門へのヒアリング、そして「コードリーディングセッション」を必ず行います。コードリーディングセッションとは、COBOLを読めるベテランエンジニアとJava開発チームがペアでコードを読み解き、暗黙のルールを設計書に落とし込む作業です。この工程を省略して得られる短期的なコスト削減は、後工程での障害対応コストで確実に吹き飛びます。

内製化とSES活用のハイブリッドモデル

金融機関の内製化が単純にはいかない理由

経産省のレガシーシステムモダン化委員会総括レポートでは、「ユーザー企業はシステムの可視化と内製化を進めるべき」と提言されています。方向性としては正しいですが、金融機関の現場では「内製化」という言葉が独り歩きし、実態との乖離が生じているケースが少なくありません。

金融機関の内製化が単純にはいかない理由は3つあります。

第一に、求められるスキルの幅が広すぎることです。金融システムの開発・運用には、アプリケーション開発だけでなく、インフラ設計、セキュリティ、ネットワーク、データベース管理、さらにはFISC安全対策基準やPCI DSSなどの規制対応の知見が求められます。これらすべてを内製でカバーできる人材を揃えることは、メガバンクであっても容易ではありません。

第二に、金融業界特有のドメイン知識の習得に時間がかかることです。勘定系の業務ロジック、決済ネットワークの仕組み、当局報告の要件などは、一般的なIT企業での経験だけでは習得できません。現場で3〜5年の実務経験を経て初めて「金融の作法」が身につくのが実態です。内製化を急いで経験の浅いエンジニアだけでチームを構成しても、品質の維持が困難になります。

第三に、プロジェクトの繁閑差が大きいことです。システム刷新の本番移行前は大量のテスト要員が必要になりますが、移行完了後は保守フェーズに移行し、必要な人員は大幅に減少します。すべてを正社員で賄おうとすると、閑散期の人件費が経営を圧迫します。

ハイブリッドモデルの設計 — コア領域は内製、専門領域はSES

現実的な解は、コア領域の内製化と専門領域のSES活用を組み合わせたハイブリッドモデルです。実際のプロジェクトで効果を上げているハイブリッドモデルの設計パターンを整理します。

内製化すべき領域(コア)

  • ビジネスロジックの設計・実装: 自社の競争優位に直結する業務ロジックは、外部に依存せず自社で設計・実装する能力を持つべきです
  • アーキテクチャの意思決定: 技術選定や設計方針の決定権は内製チームが握ります。これを外部に委ねると、ベンダーロックインのリスクが高まります
  • プロダクトオーナーシップ: 要件定義と優先順位付けは、業務を最も理解している内製チームの責務です

SESを活用すべき領域(専門)

  • インフラ構築・運用: クラウドインフラの設計・構築・運用は、専門的な知見と最新の認定資格を持つエンジニアに任せる方が合理的です
  • セキュリティ・規制対応: FISC対応、脆弱性診断、SOC運用などは専門性の高い領域であり、自社で専任チームを維持するコストは大きくなります
  • レガシーシステムの知見: COBOL、メインフレーム、全銀プロトコルなど、レガシー技術の知見は内製化の対象にはなりにくいものです。むしろ、この知見を持つSESエンジニアを適切に活用することが移行プロジェクトの成否を左右します
  • ピーク時の開発リソース: 大規模リリース前のテスト工程や、並行稼働期間中の監視体制など、一時的に大量のリソースが必要な局面ではSES活用が合理的です

ハイブリッドモデルの成功条件は、内製チームとSESチームの間に明確な責務分離と円滑な情報共有の仕組みを設けることにあります。具体的には、共通のチケット管理ツール、統一されたコーディング規約、定期的な合同レビュー会議の設定が不可欠です。

テンファイブが提供する「金融の作法を知るエンジニア」

ハイブリッドモデルにおけるSES側に求められるのは、単なる「開発リソースの提供」ではありません。金融システム開発には固有の「作法」があります。コードの品質基準、テストの網羅性、ドキュメントの粒度、障害発生時のエスカレーションルール — これらの暗黙の規範を理解した上で即戦力として機能できるエンジニアが求められます。

テンファイブは、TISインテックグループ、東京スター銀行、三菱総研DCSなど金融機関向けの開発に20年以上携わる中で、この「金融の作法」を組織的に蓄積してきました。金融システム開発の上流工程から下流工程まで一貫して対応できる体制と、レガシー技術からクラウドネイティブまで幅広い技術スタックへの対応力が、テンファイブのSESエンジニアの特徴です。

クラウドネイティブ移行の設計思想

即時整合性 vs 結果整合性 — 金融でマイクロサービスは成立するか

クラウドネイティブ移行の議論で必ず直面するのが、マイクロサービスアーキテクチャにおけるデータ整合性の問題です。一般的なWebサービスでは「結果整合性(Eventual Consistency)」で十分なケースが多いですが、金融の勘定系は即時整合性(Strong Consistency)が大前提です。口座Aから口座Bへの振込処理で、引き落としは完了したが入金が遅延する — そのような「一時的な不整合」は、金融取引では許容されません。

この矛盾に対して、よく引き合いに出されるのがSagaパターンです。Sagaは複数のローカルトランザクションを連鎖させ、失敗時には補償トランザクション(取り消し処理)を実行してデータの結果整合性を担保する設計パターンです。しかし、Sagaパターンには本質的な限界があります。

  • 補償トランザクションの完遂までの間に不整合が存在する: 振込処理が途中で失敗した場合、引き落とし済みの金額が戻るまでの間、残高が不正確な状態が発生しえます
  • 途中の不整合状態が他の処理に波及する: 残高照会や与信判断が不整合な状態のデータを参照すると、誤った判断が連鎖します
  • 補償トランザクションが失敗するケースへの対処: 取り消し処理自体が失敗した場合のリカバリ手順が複雑化します

では、金融でマイクロサービスは不可能なのでしょうか。答えは「設計次第」です。現場での実務的な解は、即時整合性が必要な処理はモノリシックに保ち、結果整合性で十分な処理だけをマイクロサービス化するというプラグマティックなアプローチです。具体的には、勘定系のコア(口座残高の更新、元帳への記帳)は単一トランザクション内で処理し、通知送信、取引履歴の更新、外部システムとの連携は非同期のイベント駆動で処理します。ソニー銀行がマイクロサービス化を進めながらも資産規模を40%に削減できたのは、こうした設計判断の成果でしょう。

段階的移行のアーキテクチャ — ストラングラーパターンの実践

レガシーシステムからクラウドネイティブへの移行において、「ビッグバン」方式 — 旧システムを一括で新システムに切り替える方式 — はリスクが極めて高くなります。代わりに推奨されるのがストラングラーフィグパターン(Strangler Fig Pattern)です。

ストラングラーフィグパターンの名前は、宿主の木に巻きつきながら成長し、最終的にその木を置き換えてしまう「絞め殺しイチジク」に由来します。技術的には、レガシーシステムの前面にプロキシレイヤー(ファサード)を配置し、機能単位で段階的にトラフィックを新システムに切り替えていく手法です。

金融システムでのストラングラーパターンの実践には、以下のステップが有効です。

  • ステップ1: API Gatewayの設置: レガシーシステムの前面にAPI Gatewayを配置し、すべてのリクエストをGateway経由でルーティングします。この段階ではGatewayは単なるパススルーとして機能します
  • ステップ2: 周辺系機能の移行: リスクの低い周辺系機能(通知、レポーティング、ログ管理など)から順に新システムに移行します。API Gatewayのルーティングルールを変更するだけで切り替えが可能です
  • ステップ3: コア機能の段階的移行: 勘定系のコア機能は、まず読み取り処理(参照系)を移行し、次に書き込み処理(更新系)を移行します。この間、旧システムと新システムの並行稼働を行い、出力の一致を継続的に検証します
  • ステップ4: レガシーシステムの廃止: すべての機能が新システムに移行し、一定期間の安定稼働を確認した後、レガシーシステムを廃止します

このパターンの利点は、各ステップでの切り戻しが容易な点にあります。新機能に問題が発生した場合、API Gatewayのルーティングをレガシー側に戻すだけで即座に復旧できます。金融システムの「止められない」制約と、段階的移行の安全性は高い親和性を持っています。

FISC安全対策基準とクラウドの整合性

クラウド移行を検討する際に必ず論点になるのが、FISC安全対策基準との整合性です。かつてはFISC安全対策基準が事実上のオンプレミス前提で策定されていたため、「クラウドはFISCに準拠できない」という誤解が根強く残っていました。しかし、現在の状況は大きく変わっています。

2025年3月に公表されたFISC安全対策基準・解説書(第13版)では、クラウド利用を前提とした対策基準が明確に整備されています。AWSは「AWS FISC安全対策基準対応リファレンス」と「AWS Well-Architected Framework FSI Lens for FISC」を提供しており、FISC安全対策基準の各項目に対するAWSサービスの対応状況を確認できます。

2025年にアップデートされた「AWS金融リファレンスアーキテクチャ日本版 v1.6」には、生成AIワークロード、サイバーレジリエンス、マイクロサービスアプリケーションに関する新規コンテンツが追加されました。勘定系ワークロードやコンタクトセンターワークロードの既存コンテンツも拡充されています。

実際のプロジェクトでは、FISC対応はクラウドベンダーが提供するリファレンスだけでは完結しません。アプリケーション層での対策 — アクセスログの保全、暗号鍵の管理、特権アクセスの統制など — は利用者側の責任であり、この部分の設計・実装にはFISC基準を熟知したエンジニアの関与が不可欠です。テンファイブでは、AWS金融リファレンスアーキテクチャとFISC Lensを活用しつつ、アプリケーション層のFISC対応設計を支援してきた実績があります。

テスト等価性戦略 — 移行品質の担保

レガシーシステムの出力と新システムの出力を比較検証する方法

レガシーシステムの刷新プロジェクトにおいて、品質を担保する最も確実な手法がテスト等価性戦略です。これは、旧システムと新システムに同一の入力を与え、出力結果が完全に一致することを自動的に検証する仕組みです。

テスト等価性戦略を実装しないまま移行を進め、本番稼働後に障害を起こすケースは実際に多くあります。移行後の障害は、移行プロジェクト中に発見される障害の数倍のコストがかかります。本番データに影響が及べば、顧客対応、当局報告、メディア対応と、技術的な修正以外のコストが雪だるま式に膨らみます。

テスト等価性の実装は以下の3層構造で設計します。

第1層: 単体レベルの等価性検証

COBOLプログラムの個々の業務ロジック(利息計算、手数料計算、為替換算など)に対して、同一の入力パラメータを与えた場合に新システムの出力が完全に一致することを検証します。ここでのポイントは、境界値とエッジケースの網羅です。金融計算では、うるう年の日割り計算、月末日の取り扱い、小数点以下の端数処理など、正常系だけでは発見できない差異が境界値に潜みます。

第2層: バッチ処理の等価性検証

日次バッチ、月次バッチの実行結果を旧システムと新システムで比較します。ここでは単純な出力ファイルの差分比較(diff)だけでなく、中間テーブルの状態、更新件数、エラーハンドリングの挙動まで含めて検証します。特にバッチの実行順序に依存するロジックがある場合、新システムの並列実行環境で結果が変わることがあります。

第3層: エンドツーエンドの等価性検証

本番データの匿名化コピーを用いて、旧システムと新システムを並行稼働させ、全トランザクションの出力を比較します。金融機関では本番データの外部持ち出しに厳しい制約があるため、並行稼働環境の構築自体に相当な設計工数がかかります。しかし、この工程を省略するリスクは計り知れません。

テスト等価性の自動検証パイプラインを構築する際には、差異検出時のアラート通知、差異の自動分類(計算差異・タイミング差異・仕様差異)、トレンド分析(日を追うごとに差異が増えていないか)の仕組みまで組み込むことを推奨します。

金融特有のテスト要件 — 日計り処理・月次バッチ・年次決算

金融システムのテストには、一般的なソフトウェアテストにはない固有の要件があります。

日計り処理(日次締め処理)は、毎営業日の終了時に実行される一連のバッチ処理群です。口座残高の確定、利息の計算、当日の取引集計、他行との精算データの作成などが含まれます。テストでは、営業日カレンダー(祝日、銀行休業日)の考慮、日跨ぎ処理の時刻境界、タイムゾーンの取り扱いを網羅的に検証する必要があります。特に年末年始や大型連休前後の処理は、通常の営業日とは異なるロジックが走ることが多く、テストケースとして必ず含めるべきです。

月次バッチでは、利息の月次確定、手数料の徴収、各種統計データの生成、当局報告データの作成などが実行されます。月次バッチのテストで最も注意すべきは、月末日の取り扱いです。2月28日(うるう年は29日)、各月の30日・31日の処理が正しく行われるかを全パターンで検証します。COBOLでは日付を「YYYYMMDD」の8桁数値として処理していたものを、Javaでは日付型に変換する際に、月末日の判定ロジックが微妙に異なるケースがあります。

年次決算処理は、年間を通じて最も重要なバッチ処理です。会計期末の残高確定、利息の年次精算、税務データの生成など、1年に1回しか実行されない処理群のテストは、日常のテストサイクルでは検証しきれません。移行プロジェクトでは、過去数年分の年次決算データを用いたシミュレーションテストを必ず実施します。「1年待ってから本番でテストする」という選択肢は、金融システムでは許されません。

金融DXを成功させるために — テンファイブの支援

20年以上の金融システム開発実績が裏付ける実務力

本記事で解説してきた金融DXの各テーマ — COBOLからの移行、クラウドネイティブ化、内製化支援 — に共通して求められるのは、金融業界固有のドメイン知識と、最新技術の双方を兼ね備えた実務力です。

テンファイブ株式会社は、金融情報システム開発に20年以上にわたって携わり、TISインテックグループ、東京スター銀行、三菱総研DCSなど、金融機関向けの開発実績を積み重ねてきました。金融システム開発の基礎と実務に精通したエンジニアが、レガシーシステムの解析からクラウド設計、テスト等価性検証まで、移行プロジェクトの全工程を支援できる体制を構築しています。

特に強みとしているのは以下の領域です。

  • レガシーシステムのリバースエンジニアリング: COBOLコードの解析と業務ロジックの可視化。暗黙知の発掘と設計書への落とし込み
  • クラウド移行の設計支援: FISC安全対策基準を満たすクラウドアーキテクチャの設計。ストラングラーパターンによる段階的移行計画の策定
  • テスト等価性戦略の立案と実行: 旧システムと新システムの出力比較検証の自動化パイプライン構築
  • ハイブリッドモデルでのSES支援: 内製チームとの円滑な協業を前提とした、金融ドメイン知識を持つエンジニアの提供

レガシー刷新・クラウド移行・内製化支援の実績

金融DXの本質は「技術の刷新」ではなく、「業務とシステムの再設計」にあります。どれほど先進的なクラウド技術を導入しても、業務プロセスの見直しが伴わなければ、新しい環境でレガシーを再構築するだけに終わります。逆に、業務の再設計を起点とした技術刷新は、コスト削減、開発速度の向上、規制対応の効率化という複合的な効果をもたらします。ソニー銀行がアプリケーション資産を40%に削減できたのは、技術の刷新と業務の再設計を同時に進めた成果でしょう。

「2025年の崖」を超えた2026年、多くの金融機関がレガシーシステム刷新の具体的な計画策定に着手しています。しかし、計画を実行に移す段階で直面するのは、本記事で述べてきたような実務レベルの課題です。COBOLの暗黙知をどう発掘するか。マイクロサービスの整合性問題をどう設計するか。テスト等価性をどう担保するか。これらの問いに答えられるのは、金融の現場を知り尽くしたエンジニアだけです。

金融DXのプロジェクトに課題を感じている方、レガシーシステム刷新の具体的な進め方を検討されている方は、ぜひテンファイブにご相談ください。20年以上の金融システム開発実績に基づく実務力で、プロジェクトの成功をサポートします。

テンファイブ株式会社 公式サイト