デジタルレジリエンス入門:これだけは知っておきたい基本

デジタルレジリエンスとは何か

レジリエンスとは?基本概念の理解

レジリエンス(Resilience)とは、もともと「弾力」「回復力」を意味する物理学の用語で、転じて、組織や個人が予期せぬ困難や脅威に直面した際に、それを乗り越え、より強靭になって回復する能力を指します。危機を回避するだけでなく、危機を経験した後でいかに早く正常な状態に戻り、進化できるかに焦点を当てた考え方です。

デジタルレジリエンスの重要性と必要性

デジタルレジリエンスは、この回復力をデジタルシステムとビジネスプロセスに適用した概念です。サイバー攻撃、システム障害、自然災害、あるいは人為的なミスなど、デジタルな脅威が常態化する現代において、企業が事業を継続し、顧客や社会に対する信頼を維持するために不可欠な能力です。単なるセキュリティ対策(防御)だけでなく、「インシデント発生を前提とした迅速な検知、封じ込め、そして復旧(回復)」までを一貫してカバーします。

富士通およびNRIデジタルトラストの取り組み

日本の大手IT企業もデジタルレジリエンスを重要視し、サービスを提供しています。

富士通の取り組みとして、災害時などのフェーズを特定せず、平時と有事の両方を支援する「フェーズフリー」視点のデジタルレジリエンスサービスを提供しています。気象情報やSNS情報などのデータを組み合わせ、リスクを可視化することで、災害対応や業務継続を支援しています。

NRIデジタルトラストの取り組みとして、NRIセキュアテクノロジーズと野村総合研究所(NRI)が共同で、システムライフサイクル全体でのサイバーセキュリティとオペレーショナル・レジリエンス(業務の強靭性、復旧力)の確保を目的としたプラットフォームサービスを開発しています。これは、セキュリティ機能をあらかじめ組み込む「セキュリティ・バイ・デザイン」のアプローチに基づいています。

デジタルレジリエンスのアプローチ

リスク管理におけるAIの活用

デジタルレジリエンスを高める上で、AI(人工知能)はゲームチェンジャーとなります。AIは、セキュリティイベントやシステムログから異常パターンをリアルタイムで検知し、インシデントの予兆を人間よりも早く把握します。また、リスクのスコアリングと優先順位付けを自動で行い、ネットワーク防御担当者が脆弱性に対して能動的に対応できる実行可能なインサイトを提供します。

インフラとデジタル化の新しい関係

クラウドコンピューティングやIoTの普及により、インフラはますます分散化・複雑化しています。レジリエンスを確保するためには、インフラ全体のリスクをエンドツーエンドで可視化することが不可欠です。また、サービスの継続性を高めるために、インフラストラクチャの冗長化や自動的な切り替えといった対策が重要になります。

医療安全におけるレジリエンスの役割

医療分野におけるデジタルレジリエンスは、単にシステム復旧に留まりません。電子カルテや遠隔医療が普及する中で、システム障害やサイバー攻撃が発生した場合でも、患者の安全と治療の継続性を最優先で確保する能力が求められます。これは、業務プロセス自体に回復力を組み込むことを意味します。

防災システムへのデジタル化の影響

デジタル化は防災システムの対応能力を飛躍的に高めます。地理情報システム(GIS)に生産拠点やサプライヤーの情報を重ね、地震や浸水のリスク情報を可視化することで、潜在リスクを事前に把握できます。また、発災時には、気象データやSNS情報から災害状況をリアルタイムに把握し、迅速な初動と適切なリソース配置を可能にします。

企業におけるデジタルレジリエンスの実践

課題とリスクの可視化方法

「見えないものは守れない」ため、リスクの可視化は実践の第一歩です。

アセットの特定では、重要なデータ、システム、ビジネスプロセスを明確にします。脅威の評価では、サイバー脅威、自然災害、オペレーショナルリスクなど、アセットに対するリスクをマッピングします。ヒートマップの作成では、リスクの発生可能性と影響度を軸にしたリスクヒートマップを作成し、役員レベルで共有できる主要なリスク指標(KRIs)を追跡します。

ビジネスプロセスのセグメンテーション活用法

業務継続性を高めるために、ビジネスプロセスを独立した単位(セグメント)に分けます。これにより、あるプロセスで障害が発生しても、他の重要な業務プロセスへの影響を最小限に抑えることができます。たとえば、顧客対応システムと財務システムを分離し、独立したセキュリティ制御とバックアップ体制を構築します。

情報共有を通じたリスク対策

インシデント発生時や予兆検知時において、関係者間での迅速かつ正確な情報共有は復旧の成否を分けます。インシデント対応チーム(CSIRTなど)を中心に、全従業員、経営層、そして外部のステークホルダー(取引先や規制当局)への報告手順を標準化し、訓練を通じて浸透させることが重要です。

デジタルレジリエンスを高めるための具体的対策

継続的バックアップの実施計画

デジタルレジリエンスの根幹は、データの回復力です。

バックアップの3-2-1ルールとして、データを3つのコピーで保持し、2種類の異なるメディアに保存し、1つのコピーはオフサイト(またはオフライン)に保管することを徹底します。特にランサムウェア対策として、不変(イミュータブル)なバックアップや隔離された保管庫(エアギャップ)の活用が有効です。

サイバーセキュリティ戦略の構築

防御(セキュリティ)と回復(レジリエンス)を統合した戦略が必要です。

多層防御の徹底では、ファイアウォール、エンドポイント保護、認証強化(MFA)など複数のセキュリティ層を設けます。脆弱性管理では、定期的な脆弱性診断と迅速なパッチ適用を行います。脅威ハンティングでは、攻撃が表面化する前に、能動的にシステム内部の脅威を探し出す活動を実施します。

インシデント対応の標準化と報告の重要性

インシデントが発生した際の対応を事前に定義した標準化されたプレイブック(手順書)を作成します。

検知から封じ込め、根絶、復旧というフェーズごとに責任者と具体的なタスクを明確化します。インシデント発生時は、事態の深刻度に応じて、経営層や規制当局への報告(エスカレーション)ルートを即座に起動できるようにしておくことが、信頼性維持のために極めて重要です。

デジタルレジリエンスの未来展望

企業の成長におけるレジリエンスの可能性

レジリエンスは、もはや「コスト」ではなく「競争優位性の源泉」です。レジリエンスが高い企業は、新しいテクノロジーや市場の変化を恐れず、迅速かつ安全に新しいビジネスモデルを試すことができます。リスクを恐れて立ち止まるのではなく、リスクを管理しながら成長を加速させるための土台となるのです。

SOCIAL CENTURYにおける新たな挑戦

今後の社会は、企業単体だけでなく、サプライチェーンや社会インフラ全体としての「集合的なレジリエンス」が求められます。企業は、自社のセキュリティだけでなく、サプライヤーやパートナー企業との情報共有やセキュリティ基準の統一を通じて、社会全体の強靭化に貢献することが求められます。

テクノロジーの進展がもたらす変化

将来的に、AI駆動のデジタルツインのような技術が、インシデント発生前に攻撃のシミュレーションを繰り返し、防御策を継続的に改善できるようになるでしょう。レジリエンスは、自動化・予測化がさらに進み、「問題が起きる前に解決される」レベルへと進化していくと予想されます。

貴社もぜひ来たるべき未来に向けた対策を今から行っていきましょう。

採用情報 長谷川 横バージョン
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