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秘密計算とは?仕組みから最新活用事例まで解説【個人情報保護とデータ活用の両立】

秘密計算とは?仕組みから最新活用事例まで解説【個人情報保護とデータ活用の両立】

秘密計算とは

秘密計算とは、データの内容を秘匿したまま計算処理を行う技術である。暗号化されたデータを復号せずに演算を実行できるため、プライバシーを保護しながらデータ分析や機械学習が可能になります。

従来の暗号化技術では、データを暗号化して保存や送信を行うことはできても、計算処理を行うためには一度復号する必要がありました。しかし、秘密計算技術を使えば、データを暗号化したまま計算処理を実行できるため、データの内容を秘匿しながら様々な分析や処理が可能になります。

秘密計算技術は、特に機密性の高いデータを扱う際に有効です。医療データ、金融データ、個人情報など、プライバシーが重要なデータを扱う際に、データの内容を秘匿しながら分析や機械学習を行うことができます。

秘密計算が注目される背景

近年、データ活用の重要性が高まる一方で、プライバシー保護の要求も強まっています。特に、GDPR(EU一般データ保護規則)や個人情報保護法などの法規制が強化される中、データのプライバシーを保護しながらデータ活用を行う方法が求められています。

秘密計算技術は、このような課題を解決する技術として注目されています。データの内容を秘匿しながら、データ分析や機械学習を行うことができるため、プライバシー保護とデータ活用を両立できるのです。

2025年の最新動向

2025年には、秘密計算の普及促進に向けた動きが加速しています。NTTドコモビジネス、産総研、NRI、NRIセキュア、GMOコネクトの5組織は、2025年10月に「秘密計算活用事例集 -プライバシーを守るデータ活用例-」の初版を公開しました。また、同年3月には「秘密計算を用いたデータ利活用実践のためのガイドライン」の中間報告文書も公開されています。

これらの組織は、内閣府「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第3期」の研究開発テーマとして、秘密計算技術の社会実装に向けた研究開発を推進しています。NTTグループが開発した秘密計算規格がISO(国際標準規格)に採用されるなど、日本は世界的にもトップレベルの技術力を有しています。

秘密計算の仕組み

秘密計算の仕組みを理解するためには、従来の暗号化との違いを理解することが重要です。

従来の暗号化との違い

従来の暗号化では、以下のような流れでデータを処理します:

  1. データを暗号化
  2. 暗号化されたデータを保存または送信
  3. 計算処理を行う前に復号
  4. 復号されたデータで計算処理を実行
  5. 結果を取得

この方法では、計算処理を行う際にデータを復号する必要があるため、処理を行う側がデータの内容を見ることができてしまいます。

一方、秘密計算では、以下のような流れでデータを処理します:

  1. データを暗号化
  2. 暗号化されたまま計算処理を実行
  3. 結果も暗号化されたまま取得
  4. 必要に応じて結果を復号

この方法では、計算処理を行う側がデータの内容を見ることなく、計算処理を実行できます。

準同型暗号とは

準同型暗号は、秘密計算を実現する主要な技術の一つです。準同型暗号では、暗号化されたデータに対して、復号せずに計算処理を行うことができます。

準同型暗号の処理フローは以下の通りです:

  1. クライアント側: 元データを暗号化し、暗号化データを作成
  2. サーバー側: 暗号化データを受け取り、データの内容を見ることなく計算処理を実行
  3. クライアント側: 暗号化された結果を受け取り、復号して結果を取得

この方法により、サーバー側でデータの内容を見ることなく、計算処理を実行できます。クラウドコンピューティングなど、外部のサーバーで計算処理を行う際に特に有効です。

秘密分散とは

秘密分散は、データを複数の断片に分割し、各断片で独立に処理を行う技術です。秘密分散では、以下のような流れで処理を行います:

  1. 分散処理: 元データを複数の断片に分割
  2. 計算処理: 各断片で独立に計算処理を実行
  3. 統合: 各断片の結果を統合して最終結果を取得

この方法では、個々の断片からは元データを復元できないため、各断片を処理する側がデータの内容を見ることができません。分散システムやマルチパーティ計算など、複数の主体が協力して計算処理を行う際に特に有効です。

その他の技術

秘密計算を実現する技術としては、準同型暗号や秘密分散の他にも、以下のような技術があります:

  • 選択的開示方式: 必要な情報のみを開示する方式
  • ゼロ知識証明: データの内容を開示せずに、特定の条件を満たしていることを証明する技術
  • マルチパーティ計算: 複数の主体が協力して計算処理を行う技術

これらの技術を組み合わせることで、様々な場面で秘密計算を実現できます。

秘密計算の種類

秘密計算には、いくつかの方式があります。それぞれの方式には特徴があり、適用場面も異なります。

準同型暗号方式

準同型暗号方式は、暗号化されたデータに対して、復号せずに計算処理を行う方式です。

特徴:
– 暗号化されたまま計算処理が可能
– 高い安全性を確保
– クラウドコンピューティングに適している

適用場面:
– クラウド上でのデータ分析
– 外部サーバーでの機械学習
– データの内容を秘匿しながら計算処理を行う場面

メリット:
– 高い安全性
– クラウド環境での利用に適している
– 実装が比較的容易

デメリット:
– 処理速度が遅い場合がある
– 計算の種類によっては対応できない場合がある

秘密分散方式

秘密分散方式は、データを複数の断片に分割し、各断片で独立に処理を行う方式です。

特徴:
– データを複数の断片に分割
– 各断片で独立に処理
– 分散システムに適している

適用場面:
– 複数の組織が協力してデータ分析を行う場面
– 分散システムでの計算処理
– マルチパーティ計算

メリット:
– 処理速度が比較的高速
– 分散システムでの利用に適している
– スケーラビリティが高い

デメリット:
– 通信コストが高い場合がある
– 実装が複雑な場合がある

選択的開示方式

選択的開示方式は、必要な情報のみを開示する方式です。

特徴:
– 必要な情報のみを開示
– 柔軟性が高い
– データ共有に適している

適用場面:
– データの一部のみを共有する場面
– 条件付きでのデータ開示
– プライバシーを保護しながらデータ共有を行う場面

メリット:
– 柔軟性が高い
– 必要な情報のみを開示できる
– 実装が比較的容易

デメリット:
– 実装が複雑な場合がある
– 計算の種類によっては対応できない場合がある

方式の比較

方式特徴適用場面メリットデメリット
準同型暗号暗号化されたまま計算クラウド計算高い安全性処理速度が遅い
秘密分散データを分散して処理分散システム高速処理通信コストが高い
選択的開示必要な情報のみ開示データ共有柔軟性が高い実装が複雑

秘密計算のメリット・デメリット

秘密計算には、メリットとデメリットがあります。導入を検討する際は、これらの点を理解しておくことが重要です。

メリット

プライバシー保護とデータ活用の両立

秘密計算の最大のメリットは、プライバシーを保護しながらデータ活用ができることです。従来の方法では、データ活用を行うためにデータの内容を開示する必要がありましたが、秘密計算を使えば、データの内容を秘匿しながらデータ分析や機械学習を行うことができます。

コンプライアンス対応

GDPRや個人情報保護法などの法規制が強化される中、データのプライバシーを保護することは重要な課題です。秘密計算を使えば、データの内容を秘匿しながらデータ活用を行うことができるため、コンプライアンス対応にも有効です。

データ共有の促進

秘密計算を使えば、データの内容を秘匿しながらデータを共有できるため、複数の組織が協力してデータ分析を行うことができます。これにより、データ共有が促進され、より効果的なデータ活用が可能になります。

クラウド環境での利用

秘密計算を使えば、クラウド環境でデータの内容を秘匿しながら計算処理を行うことができます。これにより、クラウド環境でのデータ活用がより安全になります。

デメリット

処理速度の課題

秘密計算では、暗号化されたデータに対して計算処理を行うため、通常の計算処理と比べて処理速度が遅くなる場合があります。特に、準同型暗号方式では、処理速度が課題となることがあります。

コストの課題

秘密計算を実装するには、専用の技術やツールが必要な場合があり、コストがかかることがあります。また、処理速度が遅い場合、計算リソースのコストも高くなる可能性があります。

実装の複雑さ

秘密計算を実装するには、専門的な知識や技術が必要な場合があります。特に、秘密分散方式や選択的開示方式では、実装が複雑になることがあります。

計算の種類による制限

秘密計算では、すべての種類の計算処理に対応できるわけではありません。計算の種類によっては、対応できない場合や、処理が複雑になる場合があります。

秘密計算の活用事例

秘密計算は、様々な分野で活用されています。ここでは、主要な活用事例を紹介します。

医療分野での活用

医療分野では、患者のプライバシーを保護しながら医療データを活用することが重要です。秘密計算を使えば、患者の個人情報を秘匿しながら、複数の病院のデータを統合して研究を行うことができます。

千葉大学病院の事例

千葉大学病院とNTT Comによる炎症性腸疾患の観察研究は、秘密計算の代表的な活用事例です。患者のプライバシーを保護したままデータを活用し、新たな知見の獲得や患者のQOL(生活の質)向上に繋げています。

ゲノムデータの分析

ゲノムデータは、個人を特定できる情報を含むため、プライバシー保護が重要です。秘密計算を使えば、ゲノムデータの内容を秘匿しながら、複数の研究機関が協力してゲノムデータを分析することができます。

臨床試験データの共有

臨床試験データを共有する際も、患者のプライバシーを保護することが重要です。秘密計算を使えば、患者の個人情報を秘匿しながら、臨床試験データを共有して分析を行うことができます。

金融分野での活用

金融分野では、顧客のプライバシーを保護しながら、データ分析を行うことが重要です。秘密計算を使えば、顧客の個人情報を秘匿しながら、不正検知や信用リスク評価などの分析を行うことができます。

複数金融機関による法人融資の需要予測

複数金融機関の情報を活用した法人融資の需要予測は、秘密計算の活用事例として注目されています。各金融機関が保有するデータを互いに開示することなく、共同で分析を行うことが可能です。

不正検知システムの構築

金融機関では、不正取引を検知するために、複数の金融機関のデータを統合して分析することがあります。秘密計算を使えば、顧客の個人情報を秘匿しながら、複数の金融機関が協力して不正検知システムを構築することができます。

生命保険業界での活用

生命保険業界では、反社勢力への資金流出や不正請求の検知モデルを、各社が保有するデータを互いに開示することなく共創することが可能になります。また、医療機関やヘルスケア企業から病歴やバイタルの情報を取得し、健康年齢に応じた保険料の設定など、保険料のパーソナライズ化への活用も期待されています。

信用リスク評価の改善

信用リスク評価を行う際も、顧客のプライバシーを保護することが重要です。秘密計算を使えば、顧客の個人情報を秘匿しながら、信用リスク評価を行うことができます。

マーケティング分野での活用

マーケティング分野では、顧客のプライバシーを保護しながら、データ分析を行うことが重要です。秘密計算を使えば、顧客の個人情報を秘匿しながら、マーケティングデータを分析することができます。

データ統合分析

複数の企業が協力してマーケティングデータを分析する際も、顧客のプライバシーを保護することが重要です。秘密計算を使えば、顧客の個人情報を秘匿しながら、複数の企業が協力してマーケティングデータを分析することができます。

パーソナライゼーションの実現

パーソナライゼーションを実現する際も、顧客のプライバシーを保護することが重要です。秘密計算を使えば、顧客の個人情報を秘匿しながら、パーソナライゼーションを実現することができます。

その他の活用事例

秘密計算は、医療、金融、マーケティング以外の分野でも活用されています。

行政分野での活用(エストニア政府の事例)

エストニア政府では、国税庁の持つ国民の納税データと、文部科学省の持つ学生のデータを秘密計算で突合し、在学中の就業と卒業率の相関を調査しました。本来結合するとプライバシーの侵害にあたる個人の収入や学業の成績といったデータを、安全に分析できた画期的な事例です。

製造業での活用

製造業では、品質データを分析する際に、企業の機密情報を保護することが重要です。秘密計算を使えば、企業の機密情報を秘匿しながら、品質データを分析することができます。

エッジコンピューティングでの活用

エッジコンピューティングでは、エッジデバイスでデータを処理する際に、データのプライバシーを保護することが重要です。秘密計算を使えば、エッジデバイスでデータの内容を秘匿しながら処理を行うことができます。

実践的な導入ガイド

企業が秘密計算を導入する際は、以下のステップを踏むことが推奨されます:

  1. 現状の課題分析: データ活用における課題を明確にする
  2. 秘密計算の適用可能性の評価: 秘密計算が課題解決に有効かどうかを評価する
  3. パイロットプロジェクトの実施: 小規模なパイロットプロジェクトを実施する
  4. 本格導入の判断: パイロットプロジェクトの結果を基に、本格導入を判断する
  5. 運用と改善: 本格導入後、運用を継続し、改善を行う

秘密計算の課題と今後の展望

秘密計算には、いくつかの課題があります。しかし、技術の進歩により、これらの課題は解決されつつあります。

技術的な課題

処理速度の改善

秘密計算では、処理速度が課題となることがあります。しかし、技術の進歩により、処理速度は改善されつつあります。特に、準同型暗号方式では、処理速度の改善が進んでいます。

実装の簡易化

秘密計算を実装するには、専門的な知識や技術が必要な場合があります。しかし、ツールやライブラリの充実により、実装は簡易化されつつあります。

今後の展望

クラウドベースの秘密計算サービスの普及

クラウドベースの秘密計算サービスが普及することで、より多くの企業が秘密計算を利用できるようになると期待されています。日本の暗号化ソフトウェア市場は2025年に約10億ドル規模に達し、2034年までに約36億ドルに成長すると予測されており(年平均成長率14.64%)、秘密計算市場もこの成長に伴い拡大が見込まれています。

AIとの組み合わせ

生成AIや機械学習と秘密計算を組み合わせることで、プライバシーを保護しながらAIを活用することが可能になります。特に、医療データや金融データを用いたAIモデルの学習において、秘密計算の活用が期待されています。

エッジコンピューティングとの組み合わせ

エッジコンピューティングと秘密計算を組み合わせることで、エッジデバイスでデータの内容を秘匿しながら処理を行うことが可能になります。

国際標準化と事例集の拡充

NTTグループが開発した秘密計算規格がISOに採用されるなど、国際標準化が進んでいます。また、2025年に公開された「秘密計算活用事例集」は、今後「準同型暗号方式」を含む新たな事例を追加した第2版の公開が予定されており、より多様なユースケースが紹介される見込みです。

よくある質問(Q&A)

Q: 秘密計算と暗号化の違いは?

A: 従来の暗号化では、計算処理を行う前にデータを復号する必要がありますが、秘密計算では、暗号化されたまま計算処理を行うことができます。

Q: 秘密計算の処理速度は?

A: 秘密計算では、通常の計算処理と比べて処理速度が遅くなる場合があります。しかし、技術の進歩により、処理速度は改善されつつあります。

Q: 秘密計算はどのくらい安全?

A: 秘密計算は、適切に実装されれば、高い安全性を確保できます。ただし、実装方法や使用する技術によって、安全性は異なります。

Q: 秘密計算の導入にはどのくらいのコストがかかる?

A: 秘密計算の導入コストは、実装方法や使用する技術によって異なります。クラウドベースのサービスを利用する場合、初期コストを抑えることができます。

Q: 秘密計算はどの業界で使われている?

A: 秘密計算は、医療、金融、マーケティング、製造業など、様々な業界で活用されています。

まとめ

本記事では、秘密計算の基本から実践的な活用方法まで、詳しく解説しました。

要点をまとめると:

  • 秘密計算とは、データの内容を秘匿したまま計算処理を行う技術である
  • 準同型暗号、秘密分散、選択的開示方式など、いくつかの方式がある
  • プライバシー保護とデータ活用を両立できることが最大のメリット
  • 医療、金融、マーケティングなど、様々な分野で活用されている
  • 技術の進歩により、処理速度の改善や実装の簡易化が進んでいる

秘密計算は、プライバシー保護とデータ活用を両立する技術として、今後も注目が集まると考えられます。データ活用を検討している企業は、秘密計算の導入を検討してみることをおすすめします。